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第73話

部活に顔を出し、漸く帰宅した部屋。 「ただいま」 何時もなら無言の帰宅だが、今日は違う。 「おかえりなさい」 屈託のない笑顔が出迎えてくれる。 なんだこのしあわせそうな顔は。 「ただいま、遥登」 大学で会った三条より幼い印象をうけるのは、すべてをさらけ出してくれているからか。 何も隠す事はない。 ありのままの三条だ。 此方の方が素に近いだろう。 だらしない頬を挟むとむにむにと揉む。 肉付きは悪いが、主人が大好きな犬の様で1日の疲れが吹き飛んでいく。 すっかり毒気の抜けた長岡も、学校では絶対に見せない顔をしている。 「今日は偶然会えたな」 「驚きました。 まさか、学校にいるなんて思わなかったですよ」 「俺も驚いた」 こうして恋人として会うのとはまた印象が違って見えた。 それこそ、つい先日まで高校生だった筈なのにすっかり大学生の出で立ちだった。 そこが大学構内だとか、私服だとかを抜かしても大人っぽくなったなと感じる。 中川も。 ただいまのキスも兼ねて唇をぺろっと舐め上げた。 「…っ!」 「そろそろテスト作んねぇとなんだよなぁ」 「……あ、の」 「んー?」 「…………冷めます、から」 「ん、美味いうちに食う。 遥登もな」 どっちの意味でもとれるよう曖昧に言うが、自然と上がる右口角で三条は顔を真っ赤にさせた。

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