176 / 1502
第176話
スポーツ番組がはじまると、それまで腹の上でスマホを弄っていた三条がぱっと顔を上げる。
そして、
「正宗さん、誕生日おめでとうございます」
「ん、ありがとう」
とびきりの笑顔に祝福され、28歳の年がはじまった。
三条は身体を起こし、背筋を伸ばしてからもう1度祝福の言葉を贈る。
誕生日なんて、と思っていたのは随分前の様に感じるがたった3年程前の事だ。
遥登と出会ってからそれは変わった。
家族を大切にする姿勢に触発され、物事を柔軟に考える様になれた。
特別な日になった。
長岡も起き上がると三条にきちんと向き合う。
「遥登と迎えられて嬉しいよ。
泊まってくれてありがとな」
三条が手を掴むとやわらかなものが口の端に触れる。
同じシャンプーのにおいとさらさらの髪が目の前に広がって、子供体温が背中へ回った。
「俺が1番に言いたかったんです」
「んだそれ。
すげぇ嬉しいだろ」
「嬉しいですか?」
「さいっこう」
細い身体を抱き締め返す。
心配になる程ガリガリで子供体温で、清潔な良いにおいがする。
遥登を形容するすべてが大切だ。
愛おしい。
「俺も嬉しいです」
ありがとう
沢山、ありがとう
ともだちにシェアしよう!