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第179話
洗面台の鏡に写る自分は昨日となんら変わりはない。
だけど、1つ歳を重ねた。
代わり映えはしないが、生徒達が夏休みに入り短く切った髪は何時もの長さに戻っている。
いつの間にか、蝉の声より秋の虫の声の方が聞こえる様になった。
まだ8月だというのに。
涼しくなった事自体は有り難い。
夏用ジャケットを羽織っていても特別暑いと感じる事なく過ごせる。
最高気温を更新した時はどうしようかとも思ったが、それも2日で済んでくれた。
三条の事も心配だったし、取り敢えずは安心だ。
冷たい床を裸足で踏み締める。
顔を洗い寝室に着替えに戻ると、ふとんの山が動きむくりと動いた。
「ん…」
「もう起きたのか?
ゆっくり寝てれば良いのに」
「ん、おはようございます」
「おはよ」
タオルケットを肩から落としながら欠伸を隠す恋人。
寝起きのせいかぽやっとしていて色っぽい。
その乱れた髪を直しながらしあわせを噛み締めた。
何度も、何度も、咀嚼して反芻して、しあわせに包まれる。
まだ目が眠そうでふにゃふにゃ笑う可愛い恋人もそうだと良い。
チュゥ
「歯磨きは良いのかよ、優等生」
「今日は良いんです」
「誕生日様々だな」
三条からのキスにご機嫌な長岡は更にちゅぅっと口を吸った。
寝起きもあって何時も以上にふわふわする三条は嬉しそうに花を咲かす。
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