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第204話
「コーヒーと麦茶どっちが良い?」
「正宗さんと同じのが良いです」
間延びした声が聴こえると、腹を抱いていた手が離れていく。
「俺がしますよ」
「俺にもさせろよ。
何時も淹れて貰ってばっかは不公平だろ」
振り返れば、水出しのアイスコーヒーをポットから注ぐ長岡の大きな背中。
スーツ姿のそれは毎日沢山見てきたが大学生になりその時間もなくなった。
広くてあたたかい背中。
優しい人。
スーツ姿はみる器械が減ったが、こんな近距離で見られるのは自分だけだ。
そして、触れられるのも。
「亀田先生の淹れてくれるコーヒーが上手くて水出し作ってみたけど、違げぇんだよな」
「そうなんですか?
正宗さんのも美味しいですよ」
「お愛想ばっか上手くなって。
ほら、牛乳」
「ありがとうございます」
手渡されたコーヒーに、牛乳を注ぎガムシロップも入れる。
先にマグをテーブルに運んだ長岡はそのまま足を伸ばし窓を半分閉めた。
ベランダの手摺にはふとんが気持ち良さそうに天日に当たっている。
ここ2、3日で朝晩の気温が下がったから引っ張り出したのだろう。
「牛乳ありがとうございました」
「ん、どういたしまして」
定位置に腰をおろした三条の頭をひと撫ですると部屋の奥に向かう。
キッチンカウンターから何かを手に取った長岡はそれを手にしたまま隣にしゃがみこみ、また口を開ける様言ってきた。
「遥登、あーん」
「え、あ…」
むぐっと噛み締めたのはまたあの味のグミ。
お気に入りなのだろうか。
「美味いか」
「え、はい」
長岡も同じものを噛み締める。
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