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第203話

開けっぱなしの玄関。 その陰に、はよ、と何時ものトーンで挨拶する長岡がいた。 何時ものラフな格好にパーカーを羽織っている。 「おはようございます。 また、お世話になります」 「お世話しますよ。 何でも」 ドアを押さえてくれている長岡に頭を下げつつ入室すると、メッセージ通り掃除をしていたらしくフロアワイパーが転がる部屋には開けられた窓から涼しい風が通り抜けていた。 シンク横には洗い終わったマグと皿と箸が伏せられている。 急がせてしまったかと聴くとそんな事ねぇよと返してくれた。 使ったらすぐ洗わねぇとな、と三条が気負わない様に言葉を付け足してくれる。 そういう事がさらりと言えるのがやっぱり格好良い。 「悪りぃな。 ゴミ出しして猫触ったから抱き締めんのは手ぇ洗ってから」 「あの子、よく来るんですか?」 「んー、たまにな。 地域猫だってよ。 耳もサクラだったろ」 「車とぶつからないと良いけど…」 並んで手洗いをしながら、三条はさっき会った猫の心配をする。 「大学近けぇから交通量もあるし、流石にそれ位は覚えると思うけどな。 飛び出しとかはどうしようもねぇ」 それが、外で生きるという事。 自由を奪い安全な家で飼われるのがしあわせなのか、広い世界を歩くのがしあわせなのか。 それは分からない。 蓬や柏はしあわせなのかは本人達にしか分からない。 だけど、あの顔を見ると長岡は家族にして良かったとも思う。 「ま、見掛けたら声かけてやってくれ。 尻尾で返事するから見てりゃわかる」 「はい」 泡を流しうがいをすると後ろから恋人の癖がはじまった。

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