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第206話
ポタポタと雫を落としながら長岡は浴室から戻ってきた。
人には早く乾かさないと風邪をひくだの心配ばかりで、自分には無頓着。
三条の隣に座るとボディソープの良いかおりがふわふわとしてくる。
長岡によく似合ったかおり。
清潔で甘ったるくなくてドキドキする。
先生の時はそこにコーヒーのにおいが染みていた。
あれは職員室のにおいだ。
先生の姿もドキドキするが、恋人の長岡は無防備で色気駄々漏れでもっとドキドキする。
「遥登、麦茶くれ」
三条が飲んでいたマグを受け取るとごくごくと喉を鳴らした。
上下する喉仏。
綺麗な喉だよな
細過ぎず筋肉質過ぎず、程良くて
噛んで、みたい
長岡じゃないが噛み付いてみたい。
「正宗さん」
「ん?」
「喉、噛んでみたい、です」
マグから口を離した長岡は二つ返事で了承した。
そんな軽くて良いのだろうか。
「良いよ。
ほら、噛んでくれ」
首を晒し、どうぞ、と指先でつついた。
でも、噛んでみたい欲が勝つ。
「いただきます…」
綺麗な胸鎖乳突筋に口を近付ける。
あ、と口を開き無防備な肌に犬歯を突き立てた。
冷たい雫が顔を濡らす。
明日は休みだが、きつく噛めば仕事に差し支える。
力加減だけは気を付けなければ。
「…ん」
艶っぽい声にもう少しだけ力を加える。
犬歯が皮膚に突き刺さっていく。
じわじわと少しずつ力を足し、だけど血が滲む手前を探る。
やばい、これはハマるかも…
独占欲っていうか俺のって感じがモロに解ってすげぇ優越感
腰に回ってきた手に思わず力を込めそうになった。
長岡はよく楽しそうに噛んでいたが、漸く理解した。
後ろのテレビ画面からはまだ優勝の余韻に浸った楽しそうな声が聞こえる。
はぁ…っとアツい吐息にゆっくりと顔を離した。
「痛く、ないですか」
「痛くねぇよ。
もう満足?」
「正宗さんの事で、満足する事なんかありませんよ」
「やぁらし」
「変な意味では…っ」
からかう長岡は優勝もあってご機嫌なまま。
赤くなった首筋が嬉しい。
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