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第208話
手を伸ばすと固い何かにぶつかった。
眠い目を開けると、綺麗な人が手元の書物に目を通していた。
文字をなぞる視線も、ベッドヘッドに凭れ掛かるポーズも様になっていて格好良い。
その首の赤さに昨夜の優越感が思い出される。
文字から視線がずれると、1等綺麗な笑顔が此方を向いた。
「はよ」
「おはよ、ございます」
「眠そうだな」
パーカーを羽織った長岡は読んでいた本を閉じ、頭を撫でる。
犬や猫にするようにすりすりと顎を撫でた。
気持ちの良い手にうっとりとする。
「起こしてくれれば良かったのに…」
「気持ち良さそうに寝てたからな。
遥登だって、あんま俺の事起こさねぇだろ」
むくりと起き上がった三条の髪を今度は整えると、もう1度おはようと朝の挨拶をする。
マグカップを満たすのは苦いコーヒーだが、差し出されたそれに口をつけた。
苦いけれど飲めるようになったそれ。
冷たくてすっきりしていて美味しい。
「全部飲んでも良いぞ。
また持ってくる」
「ありがとうございます」
寝起きで思ってる以上に喉が乾いていたらしく半分程飲んでしまった。
というか、歯磨きもせず飲んだ。
そもそもふとんの上で飲んでいるから、そちらの方が行儀が悪いか。
「何読んでるんですか?」
傍らの本を指を指す。
カバーを外してくれたそれは今月の新刊本。
読みたかった物だ。
三条の目がキラキラと光る。
「あ、それ」
「読み終わったら貸してやる」
「ありがとうございます。
面白いですか?」
「前評判より面白れぇ。
すぐ読み終わるから少し焦らされてろ」
優しい顔にしっかりと頷いた。
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