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第279話

この学校に三条、そしてA組の色はない。 同じ教室。 体育館。 グラウンド。 ありふれた校舎はありふれた物ではないと痛感する。 においも違うから当たり前か。 廊下を突き進み、飲食スペースへと辿り着くと辺り一面に美味そうなにおいが満ちていた。 甘いにおいや食欲そそるにおい。 便利な身長を利用して、ポケットから取り出した前売り券とクラスを確認する。 「あ、長岡せんせー」 両脇を挟む生徒に溜め息を飲み込んだ。 「どうしました」 「忙しいの? 待ってたんだよ」 「保護者の方の目もあるので抱き付かれると教師を続けられなくなります。 最近のニュース、分かってくれますか」 「そっか」 つまらなそうにしながらも離れてくれる生徒。 簡単に写真を撮れる様になったのは有り難いが、その分色んなところでリスクが増した。 便利だから不便なんだ。 高校生と多感な年頃なら尚更、バズらせたい炎上したいと好奇心が勝るかもしれない。 ストレス発散に大人もするかもしれない。 人を疑うのは悲しい事だが身を守るには疑う事も必要だ。 「これ、前売り券です。 お願い出来ますか」 「待っててね」 1人はスカートを翻し出店へと消えていった。 だが、1人は1人。 まだ隣には女子生徒がいる。 「先生って彼女いるの? 今日は来ないの?」 「プライベートは秘密です」 「えー、知りたい! 恋ばなしよーよー」 「秘密ですよ」 口端を上げだけの作り笑顔を貼り付け待っていると、すぐにさっきの女子生徒は戻ってきた。 「ありがとうございます」 「一緒に食べない?」 「まだ、教師を続けたいですから」 それに、チョコバナナとドーナツも引き換えなければいけない。 軽く頭を下げてその場を離れるもまだ周りに香るような気がするのは甘い香水のにおい。

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