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第592話
「まさ…」
愛猫に纏わり付かれた息子の表情は、この家を出ていった時よりずっと良いものになっていた。
優しくなったと言うか人間らしくなった。
本に塗れた生活ばかりで心配していたがあの顔を見れば少しは安心出来る。
「美味かったか。
残りはまた今度な。
母さんから食わせてもらえ」
嬉しそうに喉を鳴らす愛猫達は息子の旁から離れない。
付かず離れずの距離で毛繕いをはじめた黒猫。
あんなに毎日ブラッシングをしても、やっぱり1番最初に友達になった息子の隣の方が嬉しいのだろう。
「デブるからたまにな。
カリカリも買ってきたから、栄養バランス良く食えよ」
見ない間にぐんぐん大人になり、目を見張る成長をしていた。
息子なんてそんなも物だ。
いつの間にか大きくなってしまう。
あの本ばかり読んでいた息子が教職を選び、生徒さん達に成長させて貰ったんだ。
公務員だって色んな事があり心配だって底を知らないけど、でも教職をしてなければこんな大きくなった息子を見る事もなかっただろう。
誇らしく思う。
「正宗、なに食べたい?
オムライス?」
「普通で良いって…」
「照れなくて良いのに。
じゃあ、鶏肉が特売だから唐揚げで良い?」
「あぁ」
「買い物行ってくるから留守番お願いね」
「俺行ってくるから、再放送観とけよ。
今日のやつ好きだろ」
コートを着たままだった長岡はそう言い立ち上がった。
背丈ばっかり大きくなったと思っていたが、内面も大きくなっているらしい。
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