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第626話

ひらひらと花弁が舞う中、 三条と花見だ。 画面を見ながらゲーム内ではなく通話アプリを通して話をする。 折角無料で通話やメッセージを送り合えるアプリがあるのだから使わなければ勿体ない。 沢山の大人が形にしてくれたそれらの機能を沢山の感謝と共に利用する。 「ゲーム点けたら桜咲いてて驚いた。 桜なんて植えた覚えねぇし」 『いきなり咲きましたよね』 「あぁ。 こんなん遥登と花見するしかねぇだろ」 『嬉しいです』 嬉しいのは自分の方だ。 今年も花見が出来る。 恋人の楽しそうな声が聴こえる。 3月末に桜が咲いた。 いつもより早く咲いた花は恋人と見ようと約束したもの。 ずっと、花見の事を考えていた。 どうしたら遥登との約束を守れるか。 ベランダから見える桜をビデオ通話をしながら見るのが限度だろうか。 だけど自分達の分身が今、手の中で2人で花見をしている。 『桜も散ったり細かいですよね。 月もちゃんと満ち欠けしますし、博物館もすごくて回るの楽しいです』 「水族館みたいですげぇよな。 昆虫の方は植物園みてぇだし」 『蝶が展示されてるコーナー綺麗ですよね。 俺、好きです』 楽しそうな声。 想像しなくともその顔は思い出される。 なにせ、ずっと見てきた顔だ。 「遥登んとこ集まり良いんだろ」 『日中もしてますから。 あ、勉強もしてますよ」 「それは心配してねぇよ。 優等生」 『学生の本分です。 それに、目標が高いですから』 ふわふわとした笑顔が咲き乱れる。 春を象徴する花より、なにより綺麗だ。

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