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第625話
4月になり新学期がはじまった。
とは言え、世界はまだ落ち込んだままだ。
今日がエイプリルフールだとしても、世界は昨日と変わりない。
すべてが嘘だと良いのになとみんなが思っているだろう。
それでも、そんな生活の中にも楽しい事はある。
『遥登の島に行っても良いか?』
「はい。
来てください」
ここのところほぼ毎日夜になると長岡と無人島生活を楽しんでいた。
2人で協力して進めていくと、仕事中ゲ ームが出来ない長岡でもレシピや家具、服の集まりが良い。
ゲーム中でもパーカーを着用している三条は、急いで空港へと走っていく。
『花見しようぜ。
お花見セット作ったんだよ』
「花見…?」
今年の花見は諦めていた。
だけど、ゲームの中なら出来るのか。
「はいっ」
『あ、あと桜の枝だったか?
作ったから持ってく』
「それなら俺もありますよ。
沢山飾って、桜だらけにしましょう」
ゲームだって構わない。
約束を忘れていなかった事が嬉しい。
約束を守ってくれた事が嬉しい。
長岡と今年も桜を愛でる事が出来るのが嬉しい。
空港で出迎えの準備が整うと、通話口の向こうでガサガサと動きがあった。
『悪い、飲み物なくなった。
おかわり持ってきて良いか?』
「勿論です」
『来年は一緒に飲みながら花見しような。
取ってくるから、ちょっと待っててくれ』
空港にやって来た長岡の化身はそのまま動かな い。
好きですと打ち込むと、自分の分身が話した。
すっと消えたその言葉は長岡には秘密。
『待たせたな。
うし、花見だ』
「はい。
どこでしますか?
海、川、家だと外の桜見えませんよね」
『全部でしようぜ。
明日も、明後日も花見だ』
ゲーム機に反射する顔がふにゃりとだらしなくなった。
「贅沢ですね」
『贅沢だろ。
月も見れるし、雨が降っても風邪ひかねぇし最高だな』
今、お互いがお互いに出来る事に最大限に甘え合う。
寂しい、会いたいは飲み込みその分だけ出来る事を楽しむ。
そっちの方がずっと有益だ。
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