16 / 22
第15話 "親友"として③(賢司視点)
晴翔は高校に入ってから"運命"という言葉をよく口にするようになった。
そしてその相手は、
(…俺じゃない)
晴翔のそばにいるために、俺は"親友"という立場を手に入れた。でもそれだけだ。どうあがいても晴翔の恋愛対象にはならない。
晴翔は俺以外に何度も何度も恋をした。
どうして俺じゃダメなんだろう。
晴翔がフラれるたびに安堵して、どうして俺は晴翔の"運命"になれないんだと苛立って、日増しに晴翔への想いが強まっていくような気がした。
「なぁ、賢司ってもっと上の大学狙えたんじゃねーの?」
「ん?ああ、やりたい研究してる教授がいたからここにしたんだ」
「へー」
晴翔が選んだから、なんて、そんなことが言えるわけもなく、俺は適当に誤魔化した。これに関しては本当に上手くなったと思う。
おそらく晴翔は、俺のどす黒い感情なんて知らないだろう。
「そういえばさ、この前いくつか、候補のサークルに顔出したんだけど…」
「先輩」の話を聞いたのは、大学に入ってすぐの時だ。サークルで会った先輩が優しくしてくれる、と嬉しそうに話していた。
俺は油断していたんだと思う。
最初は、まさかそいつのことを"運命"だなんて言い出すとは思わなかったんだ。しかも、
『聞いてくれよ賢司!先輩がさ、俺のこと"運命"かもって言ってくれたんだよ!』
…そいつまで晴翔が"運命"だと思うなんて、全く考えていなかったんだ。
そこからあとの自分の行動は、本当に最低なものだと思う。自分でも引くほどなりふり構わないもので、笠間の言うように…俺に擬似的な番にされたことは、晴翔にとって最悪の記憶なんだろう。
少なくとも番にされてからの晴翔は、俺のことを怖がるようになった。触れるとビクリと体を震わせ、硬直する。途中からおとなしくなったのは、きっと恐怖から、だ。
それでも俺は晴翔のそばにいたかった。
好きになってくれなくてもいい。
ただそばにいたかった。
「先輩」とデートをすることを後押ししたのも、結局は俺のものだと証明したかったからだけど…
(…それも、もう終わりだ)
デートのあと、晴翔は泣いていた。
それほどまでに、晴翔が好きなのは"先輩"なのだと突きつけられた。
「何が振り回されない、だ」
晴翔を悲しませることしかできない自分に、酷く嫌気がさした。
**
目を閉じ、過去のことを反芻していたが、後ろから声をかけられ現実に引き戻される。
振り向くと、母さんがにこにこしながら立っていた。
今日は見合い相手に会う日だ。
αとの結婚は、実は前から親に仄めかされていた。俺の両親は、αの相手はαがいいと本気で思っている。そこに悪意はない。
前までは、晴翔への想いを捨てきれなかったから、見合いは全て断っていた。でも、晴翔が自由になるためには…俺はいない方がいい。
過去を振り払うように、俺は扉に手をかけ、部屋を後にした。
ともだちにシェアしよう!