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第15話 "親友"として③(賢司視点)

晴翔は高校に入ってから"運命"という言葉をよく口にするようになった。 そしてその相手は、 (…俺じゃない) 晴翔のそばにいるために、俺は"親友"という立場を手に入れた。でもそれだけだ。どうあがいても晴翔の恋愛対象にはならない。 晴翔は俺以外に何度も何度も恋をした。 どうして俺じゃダメなんだろう。 晴翔がフラれるたびに安堵して、どうして俺は晴翔の"運命"になれないんだと苛立って、日増しに晴翔への想いが強まっていくような気がした。 「なぁ、賢司ってもっと上の大学狙えたんじゃねーの?」 「ん?ああ、やりたい研究してる教授がいたからここにしたんだ」 「へー」 晴翔が選んだから、なんて、そんなことが言えるわけもなく、俺は適当に誤魔化した。これに関しては本当に上手くなったと思う。 おそらく晴翔は、俺のどす黒い感情なんて知らないだろう。 「そういえばさ、この前いくつか、候補のサークルに顔出したんだけど…」 「先輩」の話を聞いたのは、大学に入ってすぐの時だ。サークルで会った先輩が優しくしてくれる、と嬉しそうに話していた。 俺は油断していたんだと思う。 最初は、まさかそいつのことを"運命"だなんて言い出すとは思わなかったんだ。しかも、 『聞いてくれよ賢司!先輩がさ、俺のこと"運命"かもって言ってくれたんだよ!』 …そいつまで晴翔が"運命"だと思うなんて、全く考えていなかったんだ。 そこからあとの自分の行動は、本当に最低なものだと思う。自分でも引くほどなりふり構わないもので、笠間の言うように…俺に擬似的な番にされたことは、晴翔にとって最悪の記憶なんだろう。 少なくとも番にされてからの晴翔は、俺のことを怖がるようになった。触れるとビクリと体を震わせ、硬直する。途中からおとなしくなったのは、きっと恐怖から、だ。 それでも俺は晴翔のそばにいたかった。 好きになってくれなくてもいい。 ただそばにいたかった。 「先輩」とデートをすることを後押ししたのも、結局は俺のものだと証明したかったからだけど… (…それも、もう終わりだ) デートのあと、晴翔は泣いていた。 それほどまでに、晴翔が好きなのは"先輩"なのだと突きつけられた。 「何が振り回されない、だ」 晴翔を悲しませることしかできない自分に、酷く嫌気がさした。 ** 目を閉じ、過去のことを反芻していたが、後ろから声をかけられ現実に引き戻される。 振り向くと、母さんがにこにこしながら立っていた。 今日は見合い相手に会う日だ。 αとの結婚は、実は前から親に仄めかされていた。俺の両親は、αの相手はαがいいと本気で思っている。そこに悪意はない。 前までは、晴翔への想いを捨てきれなかったから、見合いは全て断っていた。でも、晴翔が自由になるためには…俺はいない方がいい。 過去を振り払うように、俺は扉に手をかけ、部屋を後にした。

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