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第14話 "親友"として②(賢司視点)
それからというもの、晴翔と接するときにぎこちなくなることが増えていった。晴翔がそれに気づいてたかどうかは分からないけど、俺は自分の内面と戦うことが多くて疲れていた。
晴翔と友だちでいたいという気持ちと、抱きしめて…それから組み敷いて、余すところなく暴いてやりたい、という狂暴な気持ち…それらがない交ぜになって、身動きがとれなかった。
そして、中3の冬に差し掛かる頃。
俺は高校選びに悩んでいた。晴翔と離れるのは寂しいけど、晴翔のためにも、俺のためにも、別の高校の方がいいんじゃないかと考えていた。
「偏差値足りない気がする…!」
「内申は今度のテスト次第っぽいけど、なんだよ、そもそもの偏差値が足りないのか?」
適度な距離感は分からない。
でも付かず離れず、俺は晴翔のそばにいた。
「あんまり高望みしないほうがいい気もするけど。そういえば、晴翔はどうして高校そこにしたんだ?」
「んー?ああ、家から一番近くて、バイトできるから」
「バイト?」
「そー。俺さ、早く独り立ちしたいんだ」
苦笑しながら晴翔は高校のパンフレットを指差す。
…。
晴翔は親族と折り合いが悪いらしい。
β同士の間に産まれたΩ…産まれる可能性はあるとはいえ、希少だ。母親に疑惑の目が向けられ、なじられ、噂され…次第に母が憔悴していく様子をただ見てるしかできなかった、と晴翔が言っていた。
現在は親族とほとんど接触がないらしい。
「…なぁ、賢司は…」
「おい晴翔!」
晴翔が何か言いかけたとき、クラスメイトの男子が間に割って入ってきた。わずかに顔をしかめて見ていると、そいつは教科書をこちらに広げて見せてきた。
「お前もΩだから、こういうのあるんだよな?!」
広げて見せてきたのは保健の教科書だった。
その日は確か、授業で"Ωの発情期"について学んだ日だった。
「…まぁ、そりゃ…、でも、薬飲んでるから平気だけど」
「へー!そうなんだ!」
興味津々、といった様子で話す相手に苛立つ。というか、わざわざそれを確かめにくる無神経さがあり得ないと思う。
「つーかさ、発情期のフェロモンとかやばいらしいよな!俺らのこと誘うとかマジ勘弁な!」
「…。誘わねーよ。ばーか」
「わかんねぇじゃん、発情期のときは無意識にフェロモン垂れ流すんだろ?」
「だからって」
「俺らのこと"そういう対象"なんだろ?もうお前と友だちとか考えられね~な!」
「…」
「だからΩって差別され、…、ってぇ?!」
頭で考えるより先に手が出ていた。
思い切り殴られた相手は、机やイスを弾きながら床にしりもちをついた。
「うわっ?!賢司?!何やってんだよ!」
「お前ら、言っていいことと悪いことがあんだろ。ふざけすぎ」
「なっ、何も殴ることないだろ?!」
「…。お前な、こういう馬鹿は庇わなくていいんだよ」
それ以上会話を続ける前に、駆けつけた先生たちに取っ捕まり、連行され…俺は手を出したせいもあり、みっちりと叱られることになった。晴翔が弁明してくれたおかげで、ほとんどお咎めなしで済んだのは不幸中の幸いか。
「お前ってさぁ…結構、血気盛んだよな」
「晴翔はもっと怒っていい」
「ったくもー…ま、俺もすっきりしたからいいけどさ。ありがとな、怒ってくれて。お前みたいにいい奴が友だちでいてくれて良かった!」
晴翔は、口元を緩め、俺を穏やかに見つめている。
あの時怒ったのは…
友だちを守りたかったからなのか、好きな相手を貶されて許せなかったからなのか、それとも…晴翔を"Ω"として扱うクラスメイトに、自分を重ねて苛立ったのか。
結局今でも分からないままだ。
でも、ひとつ分かったことがある。
(晴翔は俺のことを信頼してくれている)
俺が"Ω"のことを指摘しないと思ってる。
性別関係なしにそばにいてくれると信じてる。
俺の本当の心の内はドロドロしているのに…信頼してくれているんだ。
(嫌われたくない。俺は…α性に振り回されたり、しない)
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