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第13話 "親友"として①(賢司視点)

『αはやっぱり出来が違うな』 『凡人はどんなに努力してもαにはなれないんだ』 『さすがα』 『私たちとは違うね』 αだからすごい、αだから認められる、αだから素晴らしい、αだから… 一体、何だっていうんだ。 *** 小学生の頃から、散々言われてきた「αだから」という言葉。最早慣れっこだけど、中学に入ったばかりの頃の俺は、かなり滅入っていた。 転機は、初めての中間テスト後。 じっと中学で初めてもらう順位表を見ていると、前から身を乗り出すようにして覗く人物が1人。 「あ、こら、勝手に見んなよ」 「別にいいだろ、減るもんじゃないし」 にこにこしながら覗いてきたのは晴翔だ。 名前順で前後。わりと話していた方だと思う。 部活も同じテニス部だし。 「へー、すげぇな学年1位」 「…。そうか?まぁ、αだからな」 「?なんだそれ」 「いや、だから…俺はαだし。勉強ができるのは当たり前」 その頃の俺は、定型句を言われる前に先に言ってしまう癖がついていた。相手から言われるよりも、自分から言った方がダメージが少ないだろうと考えてのことだが、今考えてみると卑屈すぎたよなぁ、と思う。 ただ、その時の晴翔の反応が意外だったことが今でも思い出される。 「はぁ?何言ってんだよ、違うだろ」 「…え」 「久永が頑張ったから、じゃねーの? だってさ、この前貸してもらったお前のノートすんごい見やすかったし、予習復習もきっちりやるじゃん。αとか関係ねーよ。お前が頑張ったから1位取れたんだろ。つーか大体、その理論でいったら、αは全員1位じゃんか」 「あ、ああ、まぁ、そうだな」 今まで言われたことのないことを並べ立てられ、どうしたらいいのか分からない。俺が頑張ったから取れた順位…そんな風に、"俺"を見てくれたのは、晴翔が初めてだった。 「名前もいいもんな。賢司、って名前からして賢さが滲み出てる」 「お、おう…ありがとな。それを言うなら長嶺だって、晴翔、だろ? なんつーか、こう、…太陽みたいな明るさって感じだし、元気だし…いいと思う」 照れくさそうに返すと、晴翔はきょとんとした顔をしたあと、惜しげもなく満面の笑みを見せてくれた。きゅう、と胸が掴まれた感じがして、…初めての感覚に戸惑った。 そういえば、これ以降お互いの名前を呼ぶようになったんだよな。 それで、どんどん距離が縮まって、いつもつるむようになって、楽しかった。α性だってことを意識しないで付き合える相手が心地よくて、ばか騒ぎしながら笑い合えるのが嬉しくて、俺の中の晴翔の存在はかなり大きくなっていた。 そんなある日、だった。 確か、中3の春先。 「体調不良とか珍しいな…」 晴翔の荷物をもって保健室までの道を歩く。 体調不良で早退するっていうから、いつもつるんでる俺が荷物を届けることになった。まぁ、それはいいんだ。晴翔の顔見て、元気付けてやりたかったし。 「おーい、晴翔、持ってきたぞー」 ガラ、と保健室のドアを開ける。先生の姿はなかった。きょろきょろと見回すが、やっぱりいない。 ベッドに近づきカーテンを開けると、顔をおおうくらい布団を深くかぶっている晴翔を発見した。 「大丈夫か?」 「ん…」 「わり、起こしたか」 「…ん、ん…?だれ…?」 布団をめくると、ボタンがいくつかはずれ、服がはだけた晴翔が目にはいる。熱があるのか、頬を染め、潤んだ瞳で俺を見上げてくる。しかも、なんだ、この甘くてくらくらする香り。 ふらりと体が動き、ベッドに手をつく。 ギシ、という音がやけに耳に響いて聞こえた。 そしてそのまま、そっと晴翔に顔を近づけ… 「けん、じ…?」 「…、…っ!!!」 晴翔の不思議そうな声で、はっと我に返った。 俺は今、何をしようとした? まとまらない考えのまま、俺は晴翔から飛び退き、逃げるようにしてその場を離れた。 だって、おかしい。 晴翔は親友だ。 親友に俺は何をしようとした? 昇降口近くまで走る。そして立ち止まり、壁に背を預けたまま、ずるずると座り込んだ。 あの香りはΩのフェロモンだ。 俺はαだからその香りにあてられた。 「欲しい」という欲望が顔を覗かせた。 α性というものに嫌気がさしていたのに、俺は晴翔に発情したんだ。頭から冷や水をかけられたような気持ちになる。 「…。αだから、晴翔のそばにいたいって思うのか?」 Ωを屈服させたいというαの特性が、晴翔に向いているだけ? そんなの虚しいじゃないか。 「は、はは…」 笑いがこみあげてくる。 嫌っても、捨てようとしても、忘れようとしても…俺がαであることは変わらない。それを突きつけられたような気がした。

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