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第12話 罪の代償(賢司視点)
例えば、晴翔と親友のままでいる選択もできたんじゃないか、と何度も考えた。
「やっほー、久永。ちょっと面貸しな」
「…笠間(かさま)」
実家の塀に寄りかかるようにして、一人の女性が立っていた。まさかこんなところで晴翔の幼なじみに会うとは思わなかった。ここは大学からも、俺の家からも、晴翔の家からも遠い場所で…わざわざ会いに来ないと遭遇することはない。
「よく俺の家が分かったな。お前とは同級生ってくらいの接点しかないんだけどな」
「久永って名字でαといったら、ここしかないでしょ」
「そうだな」
「まぁとにかく、着いてきてよ。ここで話す内容じゃないしさ」
「…。分かった」
二人で無言で歩く。
高架下までたどり着いたとき、ぴたりと笠間が止まったので、俺も合わせて止まる。
くるりと笠間がこちらを向いて、ぱしん、と小気味のいい音が辺りに響いた。左頬がじん、と熱くなる。
「平手打ちなのは私の優しさだから」
「…そうか」
「避けなかったのはどうして? 晴翔に少しくらいは罪悪感でも感じてんの?」
「…。罪悪感か」
晴翔を傷つけてしまったのは分かってる。
許されないことも分かってる。
「晴翔は後先考えないし頭の中はわりとお花畑だけど、優しい奴だよ。あんなんだけど意外と生い立ちも、境遇も複雑で…だから、そんなあいつを泣かせる馬鹿は嫌い」
「そうだな…俺も俺が嫌いだ」
「…やることやって逃げるとか最低なんだけど。あんた、忘れらんないくらいのトラウマ植え付けたわよ」
「…。そうだな」
晴翔を誰にも盗られたくなかった。俺のことを想ってくれなくてもいい。そばにいてくれればいい。だから今まで好きな奴ができても応援した。
…いや、違うな。
心では告白が失敗することを願って、失敗したら慰めながら安堵して、それで誰かと恋人になりそうだったら無理矢理、擬似的な番にして嘘をついて縛り付けて…俺は最低な奴だ。分かってる。
「晴翔には想ってくれる"先輩"がいる。離れていれば、いつか…俺のことは過去になるから」
「…あんたさ…」
はぁ、とため息を吐きながら笠間が額を押さえる。身勝手なことを言う俺に呆れているんだろう。
「少しは晴翔の気持ちを聞いてやりなさいよ。決めつけるんじゃなくて、恨み言でもなんでも…本人の口から聞いて、受け止めてさ」
「言われなくても分かってる」
「心が読めるわけでもあるまいし」
「ずっと見てきたんだ。分かる」
「…話になんないわね」
「話はそれだけ、か? 俺は晴翔に会うつもりはないから…安心してくれ、もう傷つけたりしない」
「そういう問題じゃ、」
尚も言い募ろうとする笠間に背を向け、歩き出す。
「…久永!晴翔は、あんたのこと親友だと思ってる!今でも!」
「…。」
親友。
その言葉が重くのしかかる。
そうだ。俺は晴翔の親友としてそばにいた。
そのことを中学時代に心に決めたはずなのに、どうしてこんなことになってしまったんだろう。
少しの間だけ手に入れるために払った代償があまりに大きすぎて、自分の馬鹿さ加減に乾いた笑いが漏れた。
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