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第11話 幼なじみとして(美那視点)
晴翔はだいぶ夢見がちなところはあるけど、害はないし、同じΩ性ということもあって親近感がある。昔はだいぶ泣き虫だったから、私がよく晴翔をいじめる悪ガキ共を追い払っていた。
「で、今度は何があったわけ?」
「…賢司のこと、なんだけど」
「また何かされた?」
「され…た、というか、されてたというか」
「番にされたのは知ってるけど」
「それさ…嘘だったんだって」
晴翔は服のパーカーをずらし、自分のうなじを見せてきた。覗き込むと、特に何も見当たらない。
「ほんとだ。無い」
「だろ? 俺、別に確認とかしてなくてさ。賢司に言われたあとに見たら、確かに無くなってるんだ」
「でも発情期の時に噛まれたんじゃないの」
「それが…飲まされた薬が擬似的な発情期を作るやつで、番にはなれないらしくてさ」
「そんなもんあるんだ」
番にされた時は大泣きして大変だったけど、今日の晴翔は比較的落ち着いてる。相手が親友の久永だってことでかなり凹んでたわりには、冷静に色々と考えられてると思う。
「っていうかさ」
「うん」
「あいつ、俺のこと散々振り回しておいて今さら『もう会わない』とか虫が良すぎんだろ」
「そーね。殴っても問題ないんじゃない?」
「そうする暇がなかった。だからって今さら俺が会いに行くのは、なんかさ」
なるほど。
どちらかというと、腹立ってるわけね。
「1つ疑問なんだけど」
「何?」
「久永もαだったのに、よく今までこういうトラブルなかったね」
「賢司は…、友だちだから」
「"そういう対象"で見たことなかったの?あんたのことだから、仲の良かった久永が"運命"かもー、とか考えたことくらいあるのかと思ってた」
「…。別にαなら誰でもいいってわけじゃないし、賢司はそういう…αだから、とか、Ωだから、とか…言わない奴だったし」
「ってことは、久永に、自分がΩだってこと分からされたっていうのが嫌なんだ」
「え…」
「違うの? 今まで友だちだと思ってたのに、自分を"そういう対象"で見られてショックだったんでしょ」
そう問うと、晴翔は黙ってしまった。
信用していた人に裏切られるのは辛いものがある。ましてそれがΩ性に産まれたせい、だなんて、どうしたらいいか分からない。
「賢司は…俺のことずっと"Ω"だって意識してたのかな」
「それは本人に聞いてみないと分かんないけど、性欲発散させたいだけ、とか考える奴?」
「それは無い」
「即答ね。ほんとに?」
「賢司はそういう奴じゃない。…はず」
「ふーん。あとさ、あんたのことずっと好きだったっぽいけど、そういう素振りはなかったの?」
「…賢司は俺が誰かに恋するのを止めたことないんだ。フラれたら『お前のこと心から愛してくれる人がいるよ』って慰めてくれてたし。そもそも、賢司は…」
そう言うと、晴翔はムスッとした表情で膝を抱えた。
「賢司はさ、周りに人いっぱいいるし、恋人なんて選り取りみどりじゃん。何で敢えて俺なんだよ。俺はずっと友だちだと思ってたのに。つーか、俺のこと好きなら他の奴との仲を応援すんなよ。辛い顔して泣くくらいなら最初から薬飲ませたり噛んだりしなきゃいいのに、俺の意思なんておかまいなしで、それで、そうだよ、色々とすっ飛ばしすぎなんだよあいつ。告白が先だろ。何で最初から俺にフラれること前提で、あんな、無理矢理さ。俺だってちゃんと理由説明してくれたらこんな関係にならないで、もっとちゃんと…賢司に…向き合ったのに…」
言いながら、晴翔はポロポロと涙をこぼす。それをタオルでごしごしと拭ってやりながら、昔のことを思い出す。よくこうやって慰めてやってたっけ。
…というか、今の話しぶりだと、久永に告白されてたら拒んでなかったような気がした。それくらい晴翔は久永のことを想ってる。でも何でそれを友情だと思ってんのかな。謎だ。
久永は久永で、たぶん色々と理由はあるんだろうけど…
とりあえず晴翔を泣かせるような馬鹿、私は許せないんだよね。
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