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エピローグ

「ご、ごめんなさい!」 深々と頭を下げ、しばらく静止していると、慌てたように「顔、上げて?」と言われた。おそるおそる顔を上げると、そこには穏やかな表情の先輩がいた。 「俺、大切な奴がいて…ずっとそばにいてやりたいって、心から思ってて。だから、先輩とはお付き合いすることができません。ごめんなさい」 先輩が好きだったことは嘘じゃない。 でも俺は、賢司と歩む未来を選んだ。 だから今日、先輩を呼び出して話をすることにしたんだ。いつまでも先輩に待ってもらうわけにはいかないから。 「…何となく、そんな気がしてた」 「え」 「晴翔は、俺と居るときも誰か別の人のことを考えていたみたいだったから」 「先輩…その、すいません」 「気にしないでいいよ。まだ揺れていたようだったから、頑張ってアプローチしてみたけど、…残念。勝てなかったみたいだね」 賢司と向き合った1ヶ月… 先輩に会わなかったわけじゃない。 二人きりにはならなかったけど、講義がかぶっていたり、サークルが一緒だったりと、それなりに会う回数はあったと思う。意外と押しが強いことが分かっていたから、どう断ろうか考えていたけど、先輩も何かと忙しかったようで、「二人で会おう」という誘いはなかった。 「晴翔が笑っていてくれたらそれでいいよ。でも、また会う機会はあるだろうから…その時は普通に話してくれると嬉しい」 「…っ、はい。あの、…先輩と過ごす時間、すごく楽しかったです。ありがとうございました」 「こちらこそ、ありがとう」 穏やかで優しい先輩。 あなたに恋した気持ちは偽りなんかじゃない。伝えることは一生ないだろうけど、大切な思い出として、俺はずっと忘れないだろう。 ** ぱち、と電気をつける。 相変わらず広い室内は、誰もいないせいか、ひんやりとしている気がする。 「まだ帰ってない、か」 渡された合鍵を目の高さまで掲げ、明かりで照らす。賢司の奴、こういうところは本当に用意周到だと思う。 これを渡した時のあいつの顔といったら…あんな嬉しそうにされたら、こっちも嬉しくなるに決まってるじゃないか。 「俺のこと何でそんなに好きなんだよ…」 結局、俺の発情期は1週間丸々つづき、賢司はずっとそばにいてくれた。料理もそうだし、風呂も着替えも、…火照った体を静めることも、全部やってくれた。 先日のあれそれを一気に思い出し、カッと顔に熱が集まるのが分かった。恥ずかしいことをたくさん言ったし言われたし、隅々まで暴かれてしまった。 「…会いたいな」 番になってから、というより…想いを自覚してから、俺は貪欲になったと思う。元々、好きな相手にはかなりの執着をしてしまう方だけど、こんなに相手を求めてしまうのは初めてだ。 賢司も俺にかなりの執着をしているみたいだから、もしかしたらあいつの色に染まり始めてしまっているのかもしれない。 それもいいか、と思えるくらいには俺は賢司のことが好きだけど。 早く帰ってこいよ、と思いながら、俺は合鍵を握りしめた。 「…強盗でも入ったのかと」 「んむ…? あれ?賢司…おかえり…」 どうやらベッドで寝てしまっていたらしい。 俺はぼうっとした頭で賢司を見上げた。 「何かさ、…こう、目に見える好意って、いいよな…」 「は…?」 「いや、その…晴翔に求めてもらうのは嬉しいってこと」 「も、求めるって、お前」 賢司が照れくさそうに俺の回りにあるものを持ち上げる。それを見てはっとした。道理で重いと思った…! 「うわ!ごめん…っ、これ全部、賢司の服かっ」 「別にいいけど。タンスとかクローゼットが開けっぱなしで、ひっくり返したみたいになってたから…何かと思った」 「う、うぐ…」 Ωには"巣作り"という習性がある。 好きな相手の香りを無意識に求めてしまって、寝床を巣に見立てて、相手の服などをかき集めてしまうんだ。どうやら俺は、無意識のうちに賢司の服を物色し、集めてしまったらしい。 「晴翔は俺のこと、好き、なんだな…」 「そ、そう言っただろ!信じてなかったのかよ」 「まだ実感が湧かなくて。…だから、嬉しい」 ちゅ、と額に口付けられる。 くすぐったくて首をすくめると、賢司が布団に潜り込んできた。賢司の香りが強くなり、ドキドキと心臓が高鳴った。 「…俺の番になってくれてありがとう。晴翔」 「ん…俺も賢司と番になれて嬉しいよ」 満たされた気持ちになりながら、ぎゅ、と抱きつく。やっぱり賢司のそばは、心から安心できる場所だと思う。俺はやっと、俺を愛してくれる大切な存在と一緒になることができた。 「俺を選んだんだ…もう二度と離したりしないからな」 「当たり前だろ。簡単に手放されてたまるか」 「はは、絶対そばにいるからな」 「ん…、約束、な?」 これからも色々なことがあると思う。でも、きっと賢司となら乗り越えていけるはずだ。 与えられる熱に酔いしれながら、俺はまた、賢司と唇を重ね合わせた。 終

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