21 / 22
第20話 その答え※
賢司と過ごす1ヶ月は、楽しかったと思う。
楽しかった、けど、実は決定打がない。
俺は確かに賢司が好きだ。
でもそれが恋愛なのか?と聞かれると、即答できない自分がいる。友情と恋愛の違いって…なんだ?
明日が約束の期限だ。
それなのに俺はまだ決めかねていた。
「どうしたんだ、そんな難しい顔して」
「わ、つつくなよ」
眉間をぐにぐにと押され、抗議の声を上げる。すると、賢司は何が楽しいのかニコニコしながら「ごめんごめん」と指を離した。
「今日も可愛いな」
「そ…、そうかよ」
「なぁ、晴翔。…もう決めたか?」
「え」
あまりに気軽な問いかけにきょとん、としてしまった。賢司の表情は変わらない。
「決めたって…」
「俺とどうなりたいかの、答え」
「…、…ええと、それは」
「期限は明日だけど」
「わ、分かってる」
困ったように目線をさ迷わせると、髪の毛を柔らかく撫でられた。確かめるように、丁寧に丁寧に…目線すら優しい。
「そもそもさ、晴翔は俺のこと、どう思ってるんだ?」
「どう?どうって…」
目を閉じ、賢司との思い出をゆっくり振り返る。脳裏に浮かぶのは、楽しかった記憶ばかりだ。
「…昔から努力家で、αだってことをひけらかしたりしないし、優しいし、イケメンだし、よく気がつくし、すげぇなって思ってたんだよな。お前のこと好きな奴って結構いてさ、友だちながらに誇らしかったりとかして。でも、周りがどんなに賢司のこと好きでも、俺の方が賢司のこと知ってんだぞ、って妙な優越感もあった気がする」
そうだ、賢司の友だちでいられることは、俺にとって誇らしいものだった。"憧れ"でもあったし、一緒に居ると楽しくて仕方なかった。
「俺のこと、Ωだからって差別しないし、発情期のことをからかわれた時も守ってくれただろ?何ていい奴なんだ、って思った。高校も大学も一緒で、またそばに居られんだ、って思うと嬉しくてさぁ。賢司に恋人ができたり、将来結婚したりして俺との時間が減ったら嫌だな…とか考えたこともあったな。たぶん、ショックで寝込むと思う」
「はる、」
「あと、俺のことになると熱くなるのも最初は何でかなって思ってたけど、俺のこと好きだからなのかー…って分かったら、なんか、愛されてんなぁって思ったりとか。そりゃ最近は色々あったけど、どんなに頑張っても賢司のこと嫌いになれないんだよな。お前がしたことなら何でも最後は許しちゃう気がしてさ…すげー不思議」
話しながら楽しくなってきた俺は、なおも言い募ろうとすると、「…晴翔!」と呼ばれて口を閉じた。そしてそのまま、ムスッとした顔で賢司を見る。
「何だよ。まだ、」
…で、俺は、ものすごく珍しいものを目にすることになった。
「お、おま、なんで、そんな顔赤いんだよ」
賢司はまるで茹で蛸のように真っ赤になっていた。俺を凝視しながら固まっている。
「お、お前なぁ…っ!まさか、そんな熱烈なこと聞けると思わなくて、…くそ、見んなよ」
「…。」
そして恥ずかしそうに手で顔を隠し、目線を反らされた。とくん、と心臓が高鳴る。何だこれ。ぎゅ、と胸を押さえるように服を掴む。
今まで恋をしてきた相手を前にしたり、先輩とデートした時だって、こんな風に痛いくらい心臓が早鐘を打つことはなかった。
ああ、そうか、俺は…
「好きだ」
「…、え」
「賢司のこと、好きみたいだ」
考える間もなく、俺は自然とその言葉を口にしていた。
だって、本当にそう思った。心から、「好きだ」って思った。たぶん…ずっと昔から、俺は賢司のことが好きだった。得体の知れない気持ちは、…これだ。
「好きって…、どういう」
「賢司と同じ。…俺、お前のこと…たぶん、ずっと恋愛対象として好きだったんだ」
「…、俺の、好きは…」
ぐい、と引っ張られ、俺はソファーに寝転ぶことになった。そういえば前にもあったな、こういう状況。
「お前を組み敷いて、暴いて、体を繋げて…めちゃくちゃにしてやりたい、っていう"好き"だぞ」
「…」
たぶん、賢司は極端なことを言って俺を試そうとしてる。つまり、そこまで出来るのか?と問われてるわけで…
「いいよ」
「…!」
「言ったろ、お前がしたことなら何でも許すって。…つーか、むしろ」
手を伸ばし、賢司を引き寄せる。
ちゅ、と軽いリップ音が聞こえた。
驚いた顔の賢司を見て、してやったり、って感じだ。
「してほしい、かも」
そう告げると、賢司の瞳に熱がこもった、気がした。そのまま食らいつくように口付けられ、ぴくん、と体が震えたのが分かった。
何度も何度も、角度を変えて唇を重ね合わせ、その熱さと甘さに酔いしれる。下唇を食まれ、唇を舌で辿られ、息さえ取り込むように深く貪られる。
「…ん、…ぁ……けん、じ…、…」
「晴翔…とろけた顔、可愛いな…」
「ぁ、あ…、んん…ふぁ…っ」
舌を口内に招き入れ、おそるおそる絡めてみた。湿った音が耳に響いて恥ずかしくなる。前にも思ったけど、賢司の唾液は甘くて、頭がぼうっとしてくる。
そして目を開けて賢司の瞳を見た瞬間、どくりと心臓が大きく高鳴るのが分かった。
「…、え?!あ、…なん、今…っ」
よく知ってる感覚。
体が熱を持ち、視界がぼやけ、息が上がる。
目の前の存在に暴かれたいという、本能。
「…晴翔…晴翔の体も、俺のことを欲しがってくれてるんだな」
「ぁ、あ…ぅ…っ、からだ、あつ…っ、ど、どうし、…どうしよっ」
「ん…、大丈夫。俺がいるから」
ぎゅう、と抱きしめられ、賢司の香りを大きく吸い込む。この前とは違う、ホッとするようなあたたかさに安心した。
「…賢司。俺、のこと…お前のものに、して」
「晴翔…」
「賢司に…全部受け取って、ほしい」
にこ、と笑うと、賢司は反対に泣きそうな顔になった。それが愛しくて、額にそっと、唇を寄せた。
**
「あ、ぁ…っ、けんじ、もう、いいからぁ…っ」
「ほぐさないと辛いのは、晴翔なんだぞ」
お互い、身に付けるものは何もない。
俺は何度も何度も吐精をしていて、身体中ぐにゃぐちゃになってると思う。たぶん、顔もだらしないものになっているんだろう。
「あ…っ」
「…。」
足を持ち上げられ、太ももに口付けられる。
ビリっとした甘い痛みにうち震える。
つつ、と後孔を指で辿られ、きゅう、と収縮するのが分かった。
…欲しい。
賢司で俺を、埋め尽くして欲しい。
「けんじ、はや、はやく…っ、もう、おれ、がまんできな…っ!」
「あんまり可愛いこと、言ったら…止められなくなる」
「いい、止めなくて、…んっ、いい、からぁ…っ」
泣きじゃくりながら訴えると、ひたり、と後ろに熱を帯びた昂りが宛がわれた。
「ひっ、あ、ぁあ…っ!」
「苦しかったら、ごめん…、あとで、殴っていいから」
「っ、あ、ぁあ!あ、あっ、ん…っ、激し…!!」
チカチカと目の前を星が散る。
後孔を埋め尽くすように、少しずつ少しずつ拡げられていく感覚に、背筋がぞわぞわとする。
シーツをぎゅ、と握ると、賢司に手をとられた。そのまま背中に導かれ、激しい動きとは裏腹に、「…こっち」と優しく囁かれる。
きゅう、と後孔が締まるのが分かって恥ずかしくなってしまった。
ぐり、といいところを擦られ、何度目か分からない射精をする。思考はもうぐちゃぐちゃ。突き上げられるたびに、薄い精を吐き出し続けてる状態だ。
「んっ、…ん、ぁ、…え?…あ…なんで抜い…っ」
「…」
くる、とひっくり返され、うつ伏せにさせられる。不思議に思って仰ぎ見ると、息を荒げた賢司が目に入った。
「けん、」
「…晴翔を俺のものにして…いいか?」
「…っ」
ゆっくり覆い被さってきた賢司は、柔く首筋に口づけを落とした。その刺激に、びくりと体が跳ねる。
「…いい、よ…俺の全部、あげる」
そっと目を閉じる。
恐怖とかそういうものは、全然なかった。
「…晴翔、好きだよ」
直後、身体中に電気が通ったかのような衝撃に襲われた。うなじが焼けるように熱い。涙はぽろぽろと流れ落ちたけど、ものすごく、満たされた感じがした。
「賢司…、俺も、すき…、…お前のことが、好きだ」
ぽた、と頬に水が落ちる。
それは汗なのか、賢司の涙なのか…
分からないまま、また俺たちは深く口づけ合った。
ともだちにシェアしよう!