22 / 22

永遠に…epilogue(2)

 深い深い森の奥。  誰も訪れる事もないその場所に、美しいライトブルーに染まる花畑が広がっている。 「ああ……今年も綺麗に咲いたよ、アンジュ。君の好きなネモフィラが……」  アンバーはそう呟くと、青い花の絨毯に鼻先を埋めた。  暖かくて優しい陽射しが、アンバーの灰色の毛をキラキラと銀色に輝かせている。  可憐な花の香りがふわりと漂う。  それはまるで── 「アンジュの匂い」  燃えるように溶け合うように求め合ったあの時と同じ香りが、甘く、懐かしく、アンバーの身体を包み込んでいく。 「もうすぐ逢えるね。アンジュ」  目を閉じれば、愛しい人のその姿が浮かんでくる。  心地よい温度の陽射しと、甘い香りは、微睡みを誘う。  ──アンバー…………  懐かしい声だ。  すぐ側で聞こえた。  ──眠ってるの?  確かに聞こえた。  アンバーは、重くて仕方のない瞼をゆっくりと上げる。 「起きてるよ。君を待ってたんだ。アンジュ」  花の絨毯に鼻先を埋めたまま、上目遣いに見上げると、少し拗ねたように唇を窄めたアンジュと視線が絡む。  その瞳は、ネモフィラと同じ美しいライトブルー。 「相変わらず綺麗だな」  ──あの頃のまま、ちっとも変わらない。  むくりと起き上がり、アンバーが距離を詰めると、アンジュはぷいっと顔を背けた。 「俺が来るって分かってたの? せっかく驚かせようと思ったのに」  ──そんな態度も昔のままだ。  アンバーは、クスッと小さく笑い、首を横に振る。 「本当に天使が舞い降りたのかと思って、びっくりしたよ」 「全然驚いてないくせに」  その白い頬にキスをして、甘い香りを放つ細い首筋に鼻先を埋めた。 「愛してるよ、アンジュ」  クンッと、鼻を鳴らせば、アンジュはくすぐったそうに笑う。 「言わなくても分かってる」  アンジュがそう言って、アンバーに視線を合わせて、頬を染める。 「俺も──」  愛してる……と、アンジュが続けた言葉は、そよ風に掻き消されるくらい小さいけれど、アンバーの耳にははっきりと届いていた。  どちらからともなく、唇を重ね合う。  甘い甘い香り。花の匂いとアンジュの匂いが混ざり合う。  ──もう二度と離れない。  年老いたアンバーの瞼は、もう再び開くことはない。  アンジュがソルジャーのようだと言った、真っ黒な獣毛も、今で灰色になった。  しんしんと降り続く白い雪は、アンバーの身体を覆っていき、もう見分けがつかなくなった。  きっと今頃は、白い天使と再会している頃だろう。  ──Ange~天使~── END

ともだちにシェアしよう!