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永遠に…epilogue(2)
深い深い森の奥。
誰も訪れる事もないその場所に、美しいライトブルーに染まる花畑が広がっている。
「ああ……今年も綺麗に咲いたよ、アンジュ。君の好きなネモフィラが……」
アンバーはそう呟くと、青い花の絨毯に鼻先を埋めた。
暖かくて優しい陽射しが、アンバーの灰色の毛をキラキラと銀色に輝かせている。
可憐な花の香りがふわりと漂う。
それはまるで──
「アンジュの匂い」
燃えるように溶け合うように求め合ったあの時と同じ香りが、甘く、懐かしく、アンバーの身体を包み込んでいく。
「もうすぐ逢えるね。アンジュ」
目を閉じれば、愛しい人のその姿が浮かんでくる。
心地よい温度の陽射しと、甘い香りは、微睡みを誘う。
──アンバー…………
懐かしい声だ。
すぐ側で聞こえた。
──眠ってるの?
確かに聞こえた。
アンバーは、重くて仕方のない瞼をゆっくりと上げる。
「起きてるよ。君を待ってたんだ。アンジュ」
花の絨毯に鼻先を埋めたまま、上目遣いに見上げると、少し拗ねたように唇を窄めたアンジュと視線が絡む。
その瞳は、ネモフィラと同じ美しいライトブルー。
「相変わらず綺麗だな」
──あの頃のまま、ちっとも変わらない。
むくりと起き上がり、アンバーが距離を詰めると、アンジュはぷいっと顔を背けた。
「俺が来るって分かってたの? せっかく驚かせようと思ったのに」
──そんな態度も昔のままだ。
アンバーは、クスッと小さく笑い、首を横に振る。
「本当に天使が舞い降りたのかと思って、びっくりしたよ」
「全然驚いてないくせに」
その白い頬にキスをして、甘い香りを放つ細い首筋に鼻先を埋めた。
「愛してるよ、アンジュ」
クンッと、鼻を鳴らせば、アンジュはくすぐったそうに笑う。
「言わなくても分かってる」
アンジュがそう言って、アンバーに視線を合わせて、頬を染める。
「俺も──」
愛してる……と、アンジュが続けた言葉は、そよ風に掻き消されるくらい小さいけれど、アンバーの耳にははっきりと届いていた。
どちらからともなく、唇を重ね合う。
甘い甘い香り。花の匂いとアンジュの匂いが混ざり合う。
──もう二度と離れない。
年老いたアンバーの瞼は、もう再び開くことはない。
アンジュがソルジャーのようだと言った、真っ黒な獣毛も、今で灰色になった。
しんしんと降り続く白い雪は、アンバーの身体を覆っていき、もう見分けがつかなくなった。
きっと今頃は、白い天使と再会している頃だろう。
──Ange~天使~── END
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