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第1話

  この世には男性女性に加え、アルファ、ベータ、オメガの性別が存在する。 俺、河東凌一(かわとうりょういち)は特に苦労することもなく、望めば大概のものは手に入った。母という人は、俺に甘かったからだ。そして、父という人は、打て変わって厳しい人だった。  ぬるい環境の中でも、厳しい父という人から教養と学問、どこに出しても恥じないよう行儀作法まで特別カリキュラムで叩き込まれた。そのお陰で節度のある素直な子に育った。俺みたいなのを世間では、御曹司と言われている。  事実だから仕方がないが、俺が金持ちな訳ではない。苦労する事なんて何もないだろうと、俺をちやほやする取り巻き達が言うが、俺だってそれなりに苦労はしているし悩みだってある。  それは「母という人、父という人」の事だ。俺の柔らかくて触れられたくない部分。  男性オメガと女性アルファの間に生まれた子供。産んだのは男性オメガの方だ。兄弟は姉が二人で、男の子が欲しかった両親願っての三番目の子を妊娠。それが男の子と分かった時は大喜びしたそうだ。  両親は男らしくアルファらしい「凌一」と名付けた。それが俺な訳で……  姉達は男性オメガの母に似て背が高く、非の打ち所がない美人なのだ。どうやら俺は女性アルファの父に似たらしい。一般の女性に比べれば背は高い方だが、男性と比べると華奢で中性的だった。  両親の願い虚しく、父の遺伝子を受け継いだ俺は華奢で女みたいなアルファに育った。  女性アルファ父は、大手製薬会社「河東製薬」の女社長、河東優(かわとうゆう)。男性オメガの母、河東美津留(かわとうみつる)はそこで秘書をしている。  両親の親友、剣崎圭子(けんざきけいこ)は女性オメガで、夫の男性アルファ剣崎道照(けんざきみちてる)とも仲が良かった。  剣崎道照は、国立病院機構医療センターの院長。圭子はオメガだが優秀な女医である。子供は三人全て男で、神様の悪戯か河東美津留が三番目の子を妊娠した二ヶ月後に、圭子が妊娠したのだ。「次こそ女の子だ」と剣崎夫婦は、まだ生まれていない子の名前を「薫」と早々に決めていたらしい。  それが今、俺の隣で眠そうに欠伸をしている剣崎薫(けんざきかおる)。  俺らは必然的に幼馴染みで、小学から高校まで一緒なのはエスカレーター式の同じ学校だったからだ。今年から俺ら大学生で、まさか同じ大学だとは思っていなかった。  俺は薬科部で薫は医学部。たまたま学食で会った薫と昼食を摂っていた。 「君、河東凌一くんだよね?」  声を掛けてきた男は、完全に薫の方を見て言った。  剣崎薫は背が高く、整った顔に男らしい体格。剣崎夫婦の願い叶わず、薫は男らしいオメガに育った。  俺らは見た目と名前が逆で、一緒にいるとよく間違えられた。薫は興味なさそうに「それはこっちだ」と俺を指差しまた欠伸をした。 「え? 君アルファなんだ」  今度は俺を見て驚いた顔をした。同じ男性アルフの何気ない一言。容姿だけで判断し、デリカシーのないアルファばかりが寄ってくる。 リーダー気質を備え社会を導く希な存在とか言われて、なんでも許されると思っている。アルファとしての品格はないのかって思う。 それに…… 分かっていない俺にとってNGだって事…… 「これでも信じられない? それに声掛けるなら、そちらから名乗るべきじゃないのか? アルファとしての品格を疑われるよ」  面倒臭いが声を掛けてきた奴を威嚇してやると、気まずそうに立ち去っていった。隣で薫が俺の腕を引っ張る。 「止めろよ…大人気ねぇ俺までビビっちまうだろ」  嘘付け! おまえはアルファの影響を受けないだろ。  河東製薬は、発情期抑制剤やフェロモン抑制剤の研究をしている。様々な新薬を開発し、オメガの負担を軽減させる為、アルファが使用するオメガフェロモン誘導回避剤の開発が進んでいる。河東製薬は剣崎道照と提携し「新薬モニター」を募り格安で新薬を提供している。 俺ら親族は「被験者」であり、薬の費用は一切掛からない。その代わり、一生モルモット扱いだ。  なぜ、あの妙な二人が「番」になって結婚したのか、どうして男性アルファの子を欲しがったのか……本当の理由を考えるとゾっとする。 あの父ならやり兼ねない…… 子である前に俺は河東製薬のだ。そして薫もその一人である。   オメガフェロモン誘導回避剤が考案されたのは、俺がオメガフェロモンアレルギーだからだ。吐き気、目眩、躰の震えという拒否反応が起こる。それを利用して薬が出来ないかと、父が目を付けたのが始まりだった。まだ試験的な薬だが、オメガを巡る性犯罪や望まれない子が少しでも軽減すればいい。辛い治療試験に耐えた甲斐がある。  薫はというと治療試験を拒んでいるらしい。アルファの影響を受けにくいと言っていた。強い新薬を服用しているらしいが…… 大丈夫なのか? 「俺、行くわ」  立ち上がった薫は眠そうな目をしばしばさせ、食器を返却口に置き食堂を出ていった。 薫のやつ……まさか……  俺は急いで薫の後を追った。突き当たりの廊下を右に歩いていく薫が見え、小走りで角からそちらを覗くと薫の姿がない。近くの講義室から話し声が聞こえ、俺はそっと近寄りドアに耳を当てた。 「なぁ、あんた河東凌一になんの用だったの?」 「君には関係ないだろ!」 「あるね! どうせ河東製薬の息子に取り入ってとか悪巧みでも考えてたんじゃねぇの? 図星ね……そうゆーの許せないんだわ」 「ちょっとなにをするんだ! 俺はアルファだぞ! この匂い……君はオメガじゃないか!」 「うん、分かってるって、あんた突っ込んだ事あっても突っ込まれた事なさそうだもんね」 「当たり前だろう!」 「それがいいんじゃん……」 「どこ触って…嫌だ!」 「俺、オメガだけどアルファ並みにデカいんだよねっつーかあんた、俺の匂いでこんなんなってんの?」 「やっめろ! 嫌っ! あっ!」 「いい声……じゃもっと啼いてよ。俺ので!」 「あぁ! や……んっあっ!」 「ほら…もっと啼けよ。あれ?! オメガに犯されて泣いてんの。 俺…めっちゃ滾るんだけど!」 「んっ! 嫌…だ! 止めて!」  あいつが言う「狩り」という行為……  薫のフェロモンは性的興奮をした時、溢れ出す。あれに当てられた奴は、まず抗えないだろう。俺に関わったせいで餌食になってしまった。 自業自得ってやつ…か…… 俺は平気で人を傷付けるアルファが大嫌いだ。それに群がるオメガも、変わってしまった薫も、女みたいな自分も大嫌いだ。  

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