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ウィダニー

「あのさ、ウィダニーって、知ってる?」 本郷(ほんごう)のスイッチは、その一言で入ったんだと思う。 金曜日の昼休み。3年生になった俺らは、いつものメンバーで昼メシを食っていた。うちの高校は、2年から3年になるときにはクラス替えがない。 俺と本郷(と柳瀬と加古と秋山)は、去年からのクラスメイトだ。 男子高生の昼メシの話題といえば、控えめに言っても半分はエロい話。やったとか、やりてぇとか。 一般的な話とか、自慢話なら別にいい。 でも、「おまえはどうなのよ、海老沢(えびさわ)」そう、話を振られるとちょっと困る。 俺は童貞だ。 でも、エッチの経験がないわけじゃない。 なんて、とても言えない。 「ウィダニー?何それ?なんかエロいにおいすんだけど。」 食いついた本郷に、悪友がにやつく。 「あの、ゼリーのやつ、あんじゃん?10秒でなんとかってやつ。あれをさ、先っちょにつけて、中にぃ…… 」 柳瀬は見えないそれを、右手でゆっくりと握りつぶした。 「おえぇーー!?」 「マジぇーー?!」 未知の体験に、みんなは色めき立った。 一番目を輝かせていたのは、間違いなく本郷だ。 そしてそれを、「自分以外に」やってみようと思っているのも、この中ではあいつだけ。 「ものすごい、イイらしいぜ…… ?」 そう言われ、本郷はちらりと俺の方を見た。 今日は放課後こいつん()に行く予定…… 。 悪い予感しかしなかった。 ***** 「せんせーー!オレ勃っちゃった!便所行ってきていいすかーー!?」 5時間目の漢文の授業中、本郷が突然手を挙げて言った。 俺はギョッとしたが、教室は爆笑に包まれる。男子高だから、こういうのも別にいいっちゃいいんだけど…… 「なんか他のこと考えて気ぃ散らせーー」 いやいやそこは授業に集中しろって言うとこだろ? 先生の言葉に、俺は心中で突っ込んだ。 「マジで無理!これ抜かないと治んないやつ!」 そう言って、本郷は前かがみに教室を出て行った。 (マジで勃ってた…… ) 三国志に勃起する要素はない。いや、人によってはあるかもしれないが、あいつはそういう性癖ではないはずだ。 (ウィダニー…… ) やる気だ。あいつ絶対やる気だ。 俺は確信と化した嫌な予感で腰がむずむずした。 ***** 放課後に寄ったコンビニで、本郷は迷わずゼリー飲料を手に取った。 「ちょ、待ってそれなんで買うの?」 おののいた俺が訊くと、さも楽しそうにニヤッと笑う。 「それなんで聞くの?オレがこれ買うの、なんか変?」 本郷は銀色のパッケージを手の中でフニフニと弄ぶ。 「海老沢はさ、何味がいい?グレープフルーツ?マスカット?それともヨーグルト?」 「…… それなんで俺に訊くの?」 「できるだけおまえの好みに合わせたいと思ってるからに決まってんじゃん?」 「の…… 飲むのはおまえ…… だろ?」 つい、確かめなくてもいいことを聞いてしまう。ちゃんと笑えている自信がない。 本郷は「残念なイケメン」と仲間内で評される整った顔を、チェシャ猫みたいに不吉に歪めた。 そして、通りすがりにコンドームを籠に放り込んで、恥ずかしげもなくレジに向かう。 その同じ籠には、俺の烏龍茶も入っているのだが。 「あ、そうだ!あのぉ、レジャーシートってありますか?」 店員に聞く声がデカイ。 「海老沢ぁ!そこの、雑誌の向かいの棚だって!そこにレジャーシートあんだろ?それ取って!」 確かに、言われた通りの場所には、水玉柄のレジャーシートが置いてあった。 …… ためらわずにはいられない。 「おーい!早くしろよー!」 わざとかと思うほど、呑気な本郷の催促が響く。 でもここで、「何に使う気だ、お前!」って、「友達」に詰め寄る方が変じゃん? レジの人に、絶対変に思われるじゃん!? 「 花見ならベンチでも、できんじゃねぇの?まだ満開じゃねぇし。は、はは…… 」 俺はレジャーシートを持ってレジに向かいながら、精一杯の演技で「俺たちはこれから花見に行くんだ」感を強調した。 残念なイケメンは、白い歯を見せてにやにやと笑っていた。 ***** 本郷ん()は、父親が単身赴任、母親はバリバリの管理職だそうで、実家なのにいつ来ても誰もいない。 この半年、俺は平日に何度も来ているが、一人っ子で2階に8畳の一室を与えられている本郷は、まるで一人暮らしのようだった。 その部屋に鎮座するセミダブルのベッドから掛け布団をはがし、本郷はさっき買ったレジャーシートを広げた。 白いシーツを覆う、水玉のレジャーシート。敷き終わるとさっとカーテンを閉め、コンビ二の袋から出したコンドームの封を切る。その袋にはなぜか、味の違うゼリー飲料が3つも入っていた。 てきぱきとした本郷の動きを見ながら、俺は部屋の入り口で立ちつくした。 「よし、準備完了。」 一仕事終えた、みたいにつぶやいた本郷が、戸口に立つ俺を迎えに来る。 「海老沢、おいで。」 童話の王子様みたいな笑顔で、俺を誘う。レジャーシートを敷いたその背景は下衆(ゲス)極まりないのに。 「何、する気だよ…… 」 俺を見下ろしながら自分も脱いでいく本郷に、俺は言葉だけで抵抗を試みる。 「うん?花見だよ。そのためのシートだろ?」 Tシャツ姿になった本郷が、俺の肩を押して仰向けに倒す。その手を俺のボクサーブリーフにかけると、するりと足から抜き取った。 そのまま両膝を胸につけるように、片腕で膝裏をグッと押さえられたから驚いた。 「ちょ…… っ!」 カーテンを閉めた部屋は薄暗いとはいえ、遮光ではないので恥ずかしいところが丸見えだ。 「離せバカ!何すんだよ!」 そりゃあもう何度もこいつに抱かれたけれど、こんな女の子みたいな格好をさせられたことはない。俺はいたたまれなくなって悪態をついた。 「だから花見だって。ほらここ、おまえの菊。すげえピンクできれいだよ。」 本郷は指を舐めて濡らし、あらぬところをくりくりと指先で撫で回した。 「や…… っ! やだ…… っそんなとこ触んな!見んなぁ!」 身をよじる俺を見る目が、なんとも楽しそうだ。 「せっかくの花見なのになぁ…… ?」 「言うことがオヤジくせぇんだよ!やめろ!」 本郷は指を離すと、俺の脚を解放した。 俺は慌てて上半身を起こし、シートの上に座る。 無駄にさまになる仕草でシャツを脱ぐと、本郷は膝でベッドに乗り上がった。 「花見が嫌なんじゃ、しょうがない。期待してるみたいだから、これ、試してみような。」 その手にはゼリー飲料が握られている。 「おまえが昼メシん時から期待してそわそわしてっから、オレまでムラムラしちゃったじゃん?」 「怯えてビクビクの間違いだっつーの。だいたいなんだよそれ、そんなの入んのかよぉ…… 」 「入るヒトと入んないヒトがいるみたいだな。大丈夫。まぁ、あんま無理そうならやめるから。便所ですげえまじめに勉強したわオレ。もぉ博士の域。あとは実験あるのみ。」 「漢文の勉強しろバカ!」 本郷は後ろに回り、俺を背中から抱きしめた。俺だって別に小柄ってわけじゃないのに、こいつの腕の中にすっぽり収まってしまう。 「んん…… っ!」 耳を舐められて、自然に声が漏れた。濡れた舌と熱い息が、外の音を遮断する。本郷は耳を攻めるとき、反対側の耳を大きな手のひらで塞ぐから、俺の頭の中はこいつの唾液で脳を侵されるような、ガサガサという音だけでいっぱいになる。 俺はなんだか、水の中の別世界に連れていかれたみたいに、頭がクラクラしてしまう。 「んーー…… 」 本郷の肩にもたせかけた頭に、パキン、という小さな音がした。 「ほら、ちょっと飲め。」 耳元でそう言って、本郷が俺の口にプラスチックの飲み口を当てがう。すぼめた唇で吸い込むと、ひんやりとしたゼリーの感触と甘いヨーグルトの香りが口の中に広がった。 「美味いだろ?」 返事の代わりに、こく、こく、と続けて飲んだ。 すると本郷がそれを俺の口から取り上げる。 「このくらいからやってみよ。…… 怖くないよな?」 本郷は指の腹で飲み口を押さえて、反対の手でパッケージの上からグチュグチュとゼリーを揉みほぐした。 そりゃあ怖いよ。怖いに決まってる。 だってそんなん、ホントに大丈夫なのかよ…… ? そう思ったけど、なんでだか言えない。 俺はどうぞとでも言うように、甘勃(あまだ)ちのちんこを下から手で支えて持ち上げた。 至近距離から見上げる本郷の顔が、嬉しそうに笑う。 この無駄イケメン。 悪態つきたいのに、額にキスされて何も言えなくなった。 本郷の手に触れられ、俺のがぴくぴくと痙攣してさらに上向きになる。天を仰ぐ鈴口を指で左右に広げられて、思わず 「あ…… っ」と声が漏れた。 「海老沢ここ柔らかいから、入るんじゃないかと思うんだけど…… 」 そう言ってゼリー飲料の飲み口を当てがう本郷に驚いた。飲み口は直径5mmはある。 入るヒトと入らないヒトって、そっちかよ……!? さすがに恐い。 それは無理。無理だって…… そう思っている間も、本郷は俺の鈴口を慣らすように、くぱぁ、くぱぁ、を繰り返している。 「痛すぎたら、言えよ?」 痛かったら、じゃねぇのかよ!! そう突っ込もうとして口を開いたら、ちんこの先に痛みが走った。 「いぎゃ!!」 開いた口から出たのは、短い悲鳴だった。 反射的に目を向けた俺は、信じられないものを見た。今までの17年間、何物をも受け入れたことのないはずの俺の鈴口が、ゼリー飲料の飲み口をすっぽり咥えこんでいる。 やだ…… なんだこの、犯され感…… っ 「うん、入った入った。」 本郷の頬が、俺の横髪にすりすりとこすりつけられた。頭を撫でられているような錯覚に、訳もわからずじんわりと満たされたような安心感に包まれる。 「じゃあ、最初だから少しだけね。オレには加減がわかんないから、ちゃんとどんな感じか自分で言えよ?」 「あ…… あぁ、なんか、入ってる…… 入ってくるぅ…… っ!」 初めての感覚に、声が震える。今までそこに何かが入ってきたことなんかない。 しかも液体じゃなく、異物感をありありと感じるゼリーがゆっくりと、俺の尿道を侵していくのだ。 本郷がパックを握る手に力を込めるたびに、冷たいゼリーが少しずつ、奥へ奥へと流れ込んでくる。 「どう?気持ちいい…… ?」 「…… く、ない…… 」 俺は正直に言った。 ものすごい背徳感がある。尿道を逆流する異物感に、少し痛みもある。 でも、本郷とのいつものエッチで感じるような快感は、全くない。 「…… 痛みは?」 「…… ちょっと…… 」 本郷は小さく息を吐いた。 「わかった。じゃあ、一回出そうか。今のでどのくらい入ったのか、見たいし。」 そう言って本郷は、俺の先っちょにはまっていたゼリー飲料の飲み口を外した。 栓が外れて流れ落ちるかと思ったのに、俺のちんこはすっかり萎えてこいつの左手の上でくたりと横になり、その先からゼリーが垂れることはなかった。 ゼリーは中に入っているはずなのに、尿意みたいなものがないことで、俺はちょっと怖くなった。 「で…… 出ないよ…… ?」 「 …… そうだな。」 「そうだなって…… っ、これ、出なかったらどうなんだよ…… っ?!」 「落ち着けって。ひねり出すつもりで、いきんでみろ。」 右手で俺の頭を撫でながら、本郷が耳元でささやく。 そうされると不思議と気持ちが落ち着いて、俺は言われたとおりにしてみようと息を吸い込んだ。息を止め、グッと身体に力を入れる。尿道から何かを出そうとしたことなんかない。それでも、そこに圧を加えられていることを、身体で感じた。 ジュル、ジュルル…… 先っちょから排出されたゼリーは、ほんのちょっとだった。まだ入っているだろうと思ってもう一度いきんだけど、がんばってももう何も出ない。 「なんで?もう、出ないんだけど…… 」 「まぁ、こんなもんだろう。飲み口は完全にはまってたわけじゃないから、おまえが動くたびに押し出されてこぼれてたし。」 そう言われて見ると、尻の下にこぼれたゼリーの水たまりができている。 結構な量が入ってきたように感じていたのに、実際には少しだけだったわけだ。よく考えてみれば、狭く細い尿道に入れる水分量などたかが知れている。 俺が、安心したような拍子抜けしたような気持ちでため息をつくと、本郷は左手を濡らすゼリーをペロリと舐めた。 「ちょ、おま、何やってんだよっ!?」 「あ?」 「あ?じゃねえよ!そ…… っ、それがどっから出てきたのか、わかって んのかよっ!?」 俺は呆れるやら恥ずかしいやらで、信じらんねぇ、とつぶやいた。本郷は不敵に笑う。 「今度おまえが『出てこねぇっ』って泣き出したら、オレが直接吸い出してやるよ。」 「な…… 泣いてねぇし!」 「……そうか?」 「そうだよ。…… つかやめろ、その口でキスすんなっ!」 俺は唇を寄せてきた本郷の胸を肘で押し返した。 「じゃあ、もう一回、がんばろっか。」 軽い口調で言われ、がんばるのは俺だけだろ、と思ったが言わなかった。 本当はもう、こんなプレイやめて普通にエッチしたい。 ちゃんと触って、挿れてほしい…… そんな本音(こと)、絶対言えない。 本郷にとってはこんなのただの好奇心で、自分でやるのが嫌だから俺で試してるだけだし。 「ん?どうした?もうちょっとがんばれるよな?」 黙った俺を、本郷が後ろから覗きこむ。前に抱かれている俺が俯くと、顔が見えないのだろう。顎を持ち上げられ、横っ(つら)にキスされた。 仕方ねぇなぁ、と思ってうなずくと、 「いい子。」 耳元でささやかれて頭がぼうっとした。 本郷が左手で、俺のを優しくしごく。耳たぶを甘噛みされて、手の中にあるそれが恥ずかしいほど早く勃ち上がった。 本郷はその先っちょに飲み口を当てがうと、ゆっくりとパックを握り潰した。 「ん、んぅーー…… 」 少し慣れたとはいえ、尿道を逆流する異物の感覚に鳥肌が立つ。ほんのちょっとしか入っていないと分かったのに、ちんこの中心を侵していくゼリーに、身体を蹂躙される屈辱さえ感じた。 (ほんとこれ、気持ちよくないんだって…… っ) 耳にかかる本郷の息が熱い。ほのかにヨーグルトの香りがする息が、いつもより短く速い。 これのどこにおまえを興奮させる要素があんだよ…… 腰に当たる本郷のちんこは、さっきから熱く滾ってゴリゴリと押し付けられている。その熱と甘さを知ってる俺の孔は、さっきからもの欲しいみたいにヒクヒクしてるのに…… これがんばったら、挿れてくれんの…… ? でもがんばるって言っても、このプレイのゴールはどこにあるんだろう。 ふと疑問に思った瞬間、ヒヤッとした危機感のようなものが、突然俺を襲った。 「あ…… っ!」 身体がビクッとなって、ジュルル、と腹圧に押し出されたゼリーがこぼれた。 「ぅん?どした?」 「なんか…… わかんねぇけど、なんか、これ以上は入んないみたいな、行き止まり…… だったかも…… 」 「おまえの尿道は膀胱につながってねぇのかよ。」 「んなわけねぇだろ?!けど、たぶん今のより奥には入らない、と思う…… 。なんか、弁、みたいなのがある気がする。」 中学の時、理科の授業で習った。静脈には弁というのがついていて、血液が逆流しないようにしているとかなんとか。 たぶんそんなのが、尿道にもある。 弁、ていうか、壁?分かんないけど、何かがある。 感覚的に。 「ふうん?…… で、気持ちよかった?」 「え?」 「気持ちよかったかって聞いてんの。」 俺は言葉に詰まった。 気持ちよくはなかった。 でも、そう言ったら、じゃあ気持ちよくなるまでがんばろうと言われるに決まってる。 「気……持ち、よかった、よ?」 「…… ウソがヘタ。」 本郷は冷たく言い放つと、離していたゼリー飲料の飲み口を、三たび俺の鈴口にねじ込んだ。 「ぎゃあぁっっ!」 思わず悲鳴が出た。 強い圧力で、ゼリーが侵入してくるのが分かる。さっきまでは、斜めにしたちんこに、ほとんど重力で吸い込まれてるような感じだった。今は本郷の手で握り出されたゼリーが、逃げ惑うように俺の中になだれ込んでくる。 「や、やめ…… っ あぁ…… っ!」 勢いがあるせいで、さっきやばいと思ったあたりまで、ゼリーが到達するのが早かった。 「待てって!ほんとに!そこダメ!もう無理だから!」 俺はほとんど生命の危険さえ感じて、必死で本郷を止めた。 パックを握るあいつの手が緩むのを見て、やっと一息つく。 とはいえ飲み口はちんこの先についたままで、尿道には液体とは違う異物感がある。押し込まれたゼリーが、壁の手前で堰き止められている、そんな感覚があった。 「そ、そこ…… さっきの、行き止まり…… 」 「うん。」 見上げた俺と目が合うと、本郷はにっこりと笑った。俺の背筋に、氷水を流したような悪寒が走る。 「あ…… ほ、ほんとに、これ以上は無理だから…… 」 俺は緊張で息が上がった。 崖っぷちに片足で立たされているような心許なさ。 本郷は笑っている。 この顔のとき、こいつはダメだ。 こいつは、やめない。 止まらない。 ごくり、と息を呑んだ。 たぶんこれはホントにヤバいやつだから。 「ダ……っ んぅあぁっ!!」 俺が「その言葉」を発する前に、本郷はゼリー飲料のパックを握りつぶした。

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