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第1話

 ラストシーン、主人公であるΩは涙を流してαに告げる──。 「ずっと、あなたのものになりかった。嬉しい。これで私の命が尽きるまで、私の魂はあなたと共に生きていける──」 =完=  ラストは涙のハッピーエンドだ。大団円だ。 ──なのに…… 『あっはは、重いね。そんな事現実に言うΩいるの?』  それは現実世界のαである詠月(えいげつ)の感想だった。 ──そして最後にはいつもこう締めくくる。 『君は本当にロマンチストだね』  それはつまり、褒め言葉じゃない。  それだけは幾らロマンチスト呼ばわりされる皐月(さつき)でもわかる。    皐月はΩだ──。  第二次性徴期から政府に保護されながら生きてきた。大昔で言うところの箱入り娘に近いだろう。そこへ漫画家という、引きこもりをプラスして拗らせた世間知らずの雄のΩだ。誰かに世話してもらわない限り番が作れたかどうかも怪しいほどだ。  だが、皐月は神様に見放されていなかった。  友達が作ってくれた縁は見事素晴らしく、見目麗しいαの王子様を皐月にくださったのだ──。  だが王子様なのはステータスと見た目だけ、中身は当然と言えば当然だが、完全なるリアリスト。  αとΩにあるのは本能的結びつきだけ──。  そこに感情はいらない──。それがαである詠月のモットーであり、世間一般的見解だ。  それを証明するように、第一印象は最悪、と思われていた皐月がひとたび発情すれば、詠月はその誘引にまんまと酔わされその蜜が欲しいと自ら懇願した。  恋をしたい、愛を育んでみたいと、夢見てた皐月でさえ、同じようにαの魅力には手も足も出ず、ただ番にして欲しいと、それだけの思いで、誰にも開いたことのない場所を詠月には簡単に許してしまった。

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