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第2話
資料だけで知る、一昔前のニンゲンたちは恋愛をしていた。
今、それが出来るのは唯一、その当時のニンゲンに一番近いとされるβだけだろう。彼らはαとΩが誘発するフェロモンに感化されにくいとされている。
「皐月くんは本当にいつまでもロマンチストだなぁ、会ったその日に僕とセックスしておいて、それでもまだ恋がしたいだなんてさ──」
ムカつく言葉。
それを言うこの男はαだ。
腹が立つくらい綺麗な顔の作りをして、腹が立つくらい甘い声をして、腹が立つくらい簡単に皐月は彼を好きになった。
「詠月さんは胸がドキドキしないの? 抱きしめあったら心拍数が上がって、キスしたら眩暈を覚えて、体を重ねたら愛しくて涙が出る」
「きゃーっ! 辞めて辞めてっ恥ずかしいっ」
詠月はベッドの中で顔を覆ってくるくると悶えている。激しくてそのうち落ちてしまいそうだ。
そのまま落ちてしまえ、と皐月のイライラ度は更に増す。
「──皐月くんは僕にしたの? ドキドキして、眩暈を覚えて、泣いた?」
「馬鹿にして……」
「してないしてない! 単純に気になるんだって」
「……それって、つまり……詠月さんは俺にしないってこと、だよね……?」
のたうち回っていた詠月を冷ややかな目で見つめて皐月は悲しそうな声を出す。
詠月はうつ伏せの状態で片肘に顎を乗せながら口の端だけを上げてみせた。
「しないことないけど──それは僕がαで君がΩだからじゃない? 感情というより──本能でしょう?」
皐月は少なくともこの男が好きだと思っている。
好きだから抱きしめて欲しいし、好きだからそれ以上もして欲しい。好きだから──
それは……勘違いなのだろうかと、皐月は暗い表情を浮かべた。
もしこれが恋ならば──恋とは悲しいものだ。
皐月は少し泣きたくなった……。
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