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第3話
詠月と初めて会ったあの夜。発情期を迎えた皐月は、そのまま詠月と関係を持ってしまった。
それは同意だったし、皐月も望んだことだった。
彼に番になってと甘く囁かれ、天にも昇る気持ちだった。愛されている気分になっていた。
二人は本能だけで結ばれただけなのに──。
翌日には抑性剤を服用し、皐月の誘引フェロモンは落ち着いた。前の夜、狼のように自分を貪った男は、全くの別人かのように冷静な男へと戻っていた。
冷静といっても冷徹なわけじゃない。
体は痛くないか、辛くはないか、気分は大丈夫かと皐月にずっと優しく接してくれた。
「第一印象が良くなかったのは本当だけれど、君の話を聞いていたら君に興味が湧いたし、君が無垢な子供のように見せる仕草が僕は好きだよ」と罪深い言葉をさらりと口にしてみせた。
皐月を施設に送る道すがら、彼は穏やかな表情で皐月とは違う「好き」を口にする。皐月にはそれが苦しかった。
発情期なので皐月はそこからしばらく外出を禁止され、親族以外の面会は禁止な為、その間詠月には会えなかった。
ただ彼は毎日電話をくれた。新しく出来た恋人でも労わるように甘い声で優しく話してくれる。
初めてする恋に皐月は無我夢中になって、電話が鳴ればすぐにペンを置いて気の済むまで幸せに浸った。
自分の心の向きと、彼の心の向きが違うことにいちいち悩む暇もないくらいに、皐月は詠月に夢中だったのだ。
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