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第16話

「……くん……皐月くん……。大丈夫?」  皐月は何度か自分の名を呼ぶ声にようやく気付き、薄っすらと目を開けた。  高くて白い天井が見える。  自分の家ではないことは確かだ。天井を仰いで、少し視線をズラすと男が自分を見下ろしていた。 「あ……きらさん……?」  確かそんな名前の男だったと、皐月はぼんやりその名を呼んだ。 「最初のバーで飲んだお酒で思ってたより酔ってたみたいだね。ごめんね、気付いてあげれなくて……。はい、これ、薬とお水。飲める?」  頭を支えられ、皐月はハッキリしない意識の中、大人しく煌の介抱を受け入れ上半身をゆっくりと起こす。  渇いた喉を一粒の錠剤と水が流れて行く。 「落ち着いたら送るから」  ベッドサイドに煌は腰掛け、優しく皐月の髪を撫でた。冷たい指が気持ち良くて、皐月はうっとりと目を閉じた。    詠月を追い続ける必要なんて、どこにあるのだろうかと、皐月は頭の隅で考えた。  こうして目の前に優しくしてくれるαがいるのなら、もうそれで──。  ふと、人の気配を感じて皐月は思考を止めた。  見ると知らない男が部屋の入り口に立っていた。 「──誰……?」  少し警戒して皐月は煌の優しい指先から頭を離す。 「驚かせてごめん。友達なんだ。さっき僕飲んじゃったから、運転お願いしたんだ」 「あ……、そうなんですか……」 ──俺はてっきり……、と皐月は余計な言葉を口にしかけ飲み込んだ。  その時、心臓がドクリと激しく揺れた。胸が痺れ、その痺れが全身に巡り出す。腹部が一気に熱くなる──。 「あっ……」 ──発情……期?!  この間終わったばかりだ──。全身に嫌な汗が吹き出る。動悸がして、息も上がる。皐月は恐る恐る煌を見上げた。そして一気に夢から目を醒ます。 「いい匂い。本当、だからこの遊びは辞められないよ──」  煌の顔にはもう、先ほどまであったαのプライドも気品の欠片も何一つ残ってはいなかった──。

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