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第17話

 皐月は力の入らない体をどうにか起こして、ベッドから降りようとするが煌に簡単に連れ戻される。 「やっ、やめ……やだっ……」  皐月はグラグラと揺れる視界の中に、入口にいた男とはまた別の男がいることに気付く。  その男が皐月の両腕を掴んで頭の上で抑えている。 「よく効くでしょ、その促進剤。アルコールに混ぜて飲むとすぐに飛べるんだよ」  煌は喉の奥から下品な笑い声を出し、皐月を見下ろしている。 「やめて……やめて、くださ……い。噛まないで……」  皐月は朦朧とする意識の中で、母の死顔を思い出していた。  父の犯した罪に泣き崩れ、月日が経つ程母は憔悴していき、最期は自ら命を絶った──。  衝動的に訪れた死に遺書らしい遺書はなく、ただ、皐月に「ごめんなさい」とだけ書き残して先にひとりで逝ってしまった──。  その体を何度揺すっても、名前を泣き叫んでも、母は二度と自分を抱きしめてはくれなかった──。 「助けて……お願いします……たす……けて」  皐月にはもう、何の音も聞こえてはこなかった。  ただ、人形のように自分の身体は振り回され、三人の男たちがハイエナのように自分のハラワタを食い荒らしているような感覚だけがそこにあった。  何度も助けてとうわ言のように呟くけれど、男たちの笑い声でそれは呆気なく掻き消される。  ふと、皐月の頭の中で詠月の声がした──。 『──君はαと恋がしたかったの?』 ──うん、俺は……ね、詠月さん。  ちゃんと恋が……したかったよ……。  お母さんみたいに悲しい最期は嫌だったから……。 『──君が決めていいよ。僕は君に従う』 ──俺は、αに……  詠月さんに……  選ばれてみたかったんだ……。 ──もう、遅かったよね……。  皐月の閉じた瞼からは大粒の涙が溢れ落ち、その想いごとシーツが吸い込んでゆく。

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