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第18話

 耳鳴りする鼓膜の向こうで鈍く大きな音が聞こえた。  無機質な荒い音──硬い何かが割れるような、音──。  人の喚き声も、する──……。  皐月は自分の両手が自由になったことにようやく気付く。  両手首がジンジンと痺れているけれど、それすらぼんやりとしか感じ取れない。  聞き覚えのある高い女性の声に、重い頭をゆっくりと動かす。瑠璃が瞳に涙を溜め、心配そうにこちらを覗いていた──。 「……瑠璃……?」 「ごめんねっ、ごめん。アンタを危ない目に遭わせた……ごめんね、ごめんなさい!」  瑠璃はしゃくりあげ始め、皐月の頭を震えながら抱き寄せた。どうしてこんなにも瑠璃が泣いているのか、皐月は未だ意識がハッキリとしない。辛そうに揺れる細い肩に無抵抗に頭を預けて皐月はぼんやりと宙を眺める。  その視界の中に怖いくらい鮮明に映る、ある人影に気付いた途端、皐月は一気に頭が冴え、ようやく自身に起こった恐怖が蘇った。  相手は眉を下げ辛そうにこちらに手を伸ばした。  皐月は必死に震える手を伸ばし、それに縋り付く。 「えぃ……詠月さ……」 「うん……ここにいるよ。もう大丈夫だよ」  瑠璃は皐月を詠月に預け、入り口で見守っていた自分の伴侶に声をかけ、そっと二人部屋を出た。  瑠璃に代わって詠月が優しく皐月を抱きとめ、その髪や頬を撫でる。優しく大きなその掌に皐月は酷く安堵した。 「どこも怪我してない? 大丈夫?」 「──けが……? うん、わかんない……俺……怪我してる?」  皐月の目は半分閉じかけていて、少しまだ朦朧としているようだった。自分で何を話しているのかもあまり理解できていなさそうだ。 「してなさそう。良かった」  詠月はクスリと笑って、涙で濡れた皐月の頬を拭ってやる。  どうしてここに自分が来れたのか、今の皐月に説明しても明日には忘れているだろうと、詠月は何も話さなかった。  強く抱きしめると皐月の肉体(からだ)は燃えるように熱く、Ω特有の甘い香りが詠月の全身を包みこむ。 「聞くだけ無駄な気もするけど……抑制剤()なんて……」 「くすり……?」 「──いや、何でもない」  観念したように詠月は短く溜め息をつくと、熱く甘い唇に口付けた──。

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