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第21話

 詠月は目を見開き、辛い何かを思い出すように空を眺める皐月を見つめた。 「なに……?」 「やだ……、詠月さん、やめないで……」  皐月は自分が発した言葉に一切の責任も持たぬまま、詠月に早く続けろと四肢を絡め懇願する。 「──まぁ、今の君には何を聞いても無駄か……」  詠月は早々に諦めると、また深く皐月の奥を貫いた。自身を包み込む皐月の甘い香りに詠月は次第に理性をなくし、皐月を何度も何度も抱き潰した。 ◆  次に皐月が目を覚ましたのは施設にある自室の中だった。そこで事の全容を瑠璃から聞かされた。  最近別区の会員制バーで出入り禁止になった煌が違う地区のバーに出没していると瑠璃の伴侶が友人から聞いたらしく、慌てて店に確認した時には既に皐月を連れて出た後だったのだ。  煌は薬を使ってΩを発情させ、αやβの仲間たちと乱暴するという卑劣な犯罪を行っていた。泣き寝入りするΩが多い中、先日ようやく被害届が出され、今回現行犯で煌は逮捕された。 「もう良いから、泣き止んでよ、瑠璃」  目の前で延々と泣き崩れる瑠璃に皐月は頭を撫でて慰める。 「だ……って、あたし、アンタのこと、こんな危ない目に遭わせてさ……幸せに、なんて言っておいて……こんな……」 「もう平気だよ、俺何もされなかったしさ。瑠璃が助けてくれたからだよ? もう俺だって成人してるんだし、自己責任もあるんだし」 「今回のことにアンタが追う責任なんてない!! ないんだからね!!」  項垂れていた筈の頭を勢いよく上げ、瑠璃は眉を釣り上げ声を荒げた。 「あ……はい」  突然の剣幕に皐月は肩を竦めた。 「ありがとう、瑠璃。瑠璃が友達で良かった」  柔らかな笑顔を作って皐月は心の底から声にした。一度怒りで涙の引いていた筈の瑠璃はまた泣き出して力一杯皐月を抱き締めた。  皐月は苦しい苦しいと苦笑いしながら何度も親友の力強くて優しい腕を叩いた。

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