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第22話
「お腹空いたー」
ペンタブレットの上に突っ伏して、皐月は呟いた。
30分前に菓子パンを丸一つ平らげたのに、もうお腹が餌を寄越せと合図を送ってくる。
何か食べるものあったかな、とキッチンを探ぐっていると携帯が鳴った。着信画面を見つめて皐月は唇を小さく噛んだ。
「──はい」
皐月はわざと単調に応答した。
「──仕事中?」
「うん」
「忙しい?」
「──詠月さんは……?」
「忙しい、けど……」
「けど……なに?」
「忙しいから……君に会いたい」
皐月はぎゅっと胸を押さえて目を閉じた。
この心臓の早いリズムを、詠月は感じたことがあるのだろうか。悔しいくらい、堪らなくこの人が好きだと思うことがあるのだろうかと。皐月の視界が勝手に滲む。
「……俺に、会いたいの? 詠月さん。なら、俺のこと攫ってみせてよ……」
それくらい、詠月に欲しがられたい。
αの詠月にそんな感情があるはずもないのに──。
詠月は何も答えない。
わかってた、と皐月は薄く笑う。
「なんて、ね……。詠月さん、ありがとう。あなたに会えて楽しかった。けど、俺はこんな感情をこれからも持って平気な顔であなたの隣に立てないよ……。あなたはいないと言うけれど、俺は──探してみる。俺のことを心から求めてくれる番を。生きている間に会えるかはわからないけど……。じゃあ、身体に気を付けて、元気でね。仕事無理しないでね……サヨ……」
「ふざけるな!!」
覚悟して口にした決別の言葉は詠月の怒号で掻き消された。
初めて聞く詠月の荒々しい声に皐月は眼を丸くし、小動物のように体を固まらせる。
ブツン、と通話は突然切られた。
しばらくそのまま呆然としていた皐月だったが、自らも静かに携帯を切り、そっと胸に当て抱き締めた。
「──別れって、あんまりロマンチックにならないんだ……」
笑いながらも皐月は泣いた。
次第に、溢れてくる涙の量は増えてきて、声を抑えることが出来なくなった。
小さい子供が泣くように、わあわあと喚きながら皐月は泣いた。
今日くらいは良い。
今日くらいは、と、皐月は自分に言い聞かせた。
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