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第1話
「はい…はい、よろしくお願い致します。午後には御社に伺わせて頂きます………はい……失礼致します」
「御影さーん、対応お願いします!内線2番です」
「どこ?」
「─商業です」
「了解……………お待たせして申し訳ございません、お電話代わりました御影です」
毎日が忙しなく過ぎていく、もう年が明けて4ヶ月が経ったなんて信じたくないな。
4月といえば新年度の始まりで、新入社員が加わり指導やら教育やらで落ち着きが無かったりする。
俺、御影 千榛 27歳、独身。
それなりに大きい会社で今は一つの部の部長として働いている。
俺の働いている会社では様々な事業を展開していて、色々な部署がある。
部長はそれなりに大変だし苦労も多いけど、それだけやりがいの感じられる仕事だ。
略歴を言えば高校時代が散々で、親とも一悶着。
先生にしか進学先を伝えず心機一転して首都圏内の国公立大学へ進学。
無返済の奨学金を借りて、バイトもして無事卒業することが出来た。
自分で言うのも変だけど、なかなかに破天荒な学生時代だったと思う。
それからなんとかつくった知り合いのコネで入社して、出世出来るようにと仕事三昧の毎日で今に至る。
親とは今も絶縁状態のようなものが続いていてもう何年も会っていない。
もし会える機会があるとして、未来の自分がどうなっているかは分からないが会うことは選択しないと思う。
「御影さん、社長が呼んでるみたいです」
「……ん、ありがと」
この会社の社長、比奈田 崚 は俺より二つ上でめちゃくちゃ頭の切れる人だ。
現在の会長から引き継いだ会社をまとめあげ、業績も維持している。
俺の今の生活には満足していて、それなりに充実していると感じている。
仕事で疲れて寝る為だけに家に帰るような日もあるけれど、それはそれでやりがいがある。
実はそんな俺に婚約者というものがいて、それも会社公認のものだったりする。
結婚とか婚約とか形にこだわりはない。
寧ろそういうのは苦手だと思ってしまう質だ。
パソコンに取引内容の文章入力を終えて、出来上がった書類を確認する。
誤字脱字………なし、よし完璧。
「小野、─物産と午後からの打ち合わせ、頼んだ」
「はいっ!」
今さっき出来上がったばかりの書類を持たせて社員に声をかけた。
一旦キリがついたから社長室に向かうか。
多分今回もどうでも良いことで呼ばれたんだろうけどな。
そう思って立とうとしたら
「御影さん、チェックお願いします」
「………分かった」
渡された書類を持って椅子に座った。
ペンを持って、目を凝らす。
修正する箇所に印を付けてアドバイスを分かりやすいように書いた。
チェックして駄目だと丸投げする人間もいるけど、こうして教えた方が理解してくれるし、次にやる時に参考にしやすい。
そして段々とミスが減っていくし成長出来る奴が多い。
「はい、前よりミス減ってるよ、すげーじゃん」
「っ、ありがとうございます!」
「その調子で頑張れ」
飲み終えた紙のコーヒーカップを給湯室のゴミ箱に捨てようと、立ち上がって給湯室に向かっていた時の事だった。
「先輩っ、助けてください……っ!」
大っ嫌いな後輩が涙目でオフィスに駆け込んできやがった。
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