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第19話
「やっと、昼飯が、食べられる……」
「お疲れ様です、先輩」
結局打ち合わせが終わったのは午後の二時前ほど。
思ったより話し合いが長引いて、空腹感はもう最高潮を通り越している。
「あそこ入ろうぜ、もう腹減って動けない」
「賛成です」
打ち合わせをした会社を出てすぐの隣にあった小洒落た店の中に入ることにした。
中の雰囲気はなかなか良くて、少し古いのがレトロな感じを演出している。
「先輩何食べます?」
「えぇと…俺は……………」
メニューをじっと見つめ、食べるものを決める。
俺は基本的に料理は出来るけど、片付けや調理時間、手間を考えたらインスタント食品やカップラーメン、冷凍食品の方が圧倒的に楽だから普段自分のために料理をすることはない。
それに俺は体に悪いと言われるものは美味しいと感じてしまうつくりになっている。
「カレーライスにする」
「了解っす、すみませーん」
紗也は店員を呼ぶと俺の分も一緒に注文してくれて、あとは待つだけになった。
その間、ガラスの外で流れていく人の流れを見ていた。
たくさんの人が行き交う訳では無いが、人通りはぽつんぽつんと途切れることは無い。
みんな、忙しそうに歩いていたり、走っていたりと様々だ。
段々とキッチンの方からスパイシーな香りが漂ってくる。
結局、紗也もカレーライスにしたらしい。
しばらくして、二つのカレーライスが運ばれてきた。
昭和から変わらない味を守り続けている、とメニューの横に書いてあり、どうやら看板メニューのようだ。
「いただきます」
「いただきまーす」
辛さはもちろん、甘口だ。
紗也は辛いものが好きだから多分辛口。
「……うまい、健康的な食事してる気分になるな」
「健康的な…って、普段自炊とかしないんですか?」
「あんましない、面倒だし。紗也は?」
「俺もっすね」
カレーライスを口に運びながら、窓の外をぼんやり眺めていると傘をさして歩く人が増えてきた。
どうやら天気が崩れてきたらしい。
雲が黒くなってきて、ごろごろと雷が鳴り始めた。
雷はあんまり好きじゃない。
俺のところに落ちてきたら死ぬし。
少し怖いとすら思う。
「雨、止むまでここに居ましょうか」
「うん」
余裕のある笑顔で俺を安心させてくれる紗也。
同じ男なのに、俺より男らしくて頼りがいがある。
女心だっていとも簡単に理解して、女性を喜ばせる方法をぱっと思いつける。
容姿だって申し分ない。
こういう奴が人に好かれるんだろうな。
「すみません、コーヒーのブラックと紅茶一つお願いします」
「かしこまりました、少々お待ちください」
昼食を食べ終えても、雷は止まず二人で少し休憩をしていた。
仕事中に、なんて怒られるかもしれないけど無理に帰ろうとして濡れて大事な書類やらを使えなくしてしまうのも怒られる。
だったら少しぐらい休んでいてもいいだろう。
「ちょっとトイレ行ってきますね」
「おう」
こうやって平日、ほとんどの人間が働いている時間に紅茶を飲んで休憩しているとなんだか変な気分になってくる。
もう働きたくないとか、ずっと休んでいたいだとか。
別に会社に行くのが嫌な訳では無い、仕事をするのは好きだし楽しいと思う。だけど、そこまで辿り着くのに少し時間がかかるだけだ。
紅茶に砂糖を加える。これで二つ目だ。
まだ健康的な範囲だと思う。
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