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幕間 【異世界転生したら職業を複数持てるようになったので無双します】 (1)
俺は佐伯鷹也。ネット小説を読むのが日課の高1だ。
特に読むのは異世界モノのチート系。
転生は最早古いだとか、チーレムいい加減にしろとか、ネット上でその手の作品がばかにされつつあるのは知っているが、好きなものは好きなのだ。
読んだからといって世界が終わるわけでもなし、影響がないなら自分の直感、自分の欲求に忠実に手を出した方がいいに決まっている。
自分の身にも本当にこういったことが起こるかも、などと夢想するお年頃は1年ほど前に卒業した。
さすがにこの現代日本で幽霊騒ぎ以上の超常現象が起こるとも思えないし、万一そういう召喚のたぐいに引っかかったとして、俺自身、主役を張れるタマではない。
いや、憧れはする。チートはともかくとして。
誰からも頼られる無敵の俺と、そんな俺に好意を寄せてくれる複数の女性という構図には。
布団の中で夢を見るのは楽しいものだ。
夢から覚めてみればいつもどおりの、高校デビューに失敗したぼっちの自分がそこにいる。
中二をこじらせて、要約すると「ダークヒーローには友達なんて不要」みたいなことを言い張っていたのが祟って、すっかり友達の作り方を忘れてしまった。
それで本当にダークヒーローとやらになれるならまだしも、ここに生きるのは何のとりえもない妄想男で、ここはダークヒーローの必要ない平和な日本だ。
頭まですっぽり布団を被って、スマホにイヤホンを差し込む。
再生するのはネットの歌ってみた動画。
バックグラウンドで再生しながら、今日も小説サイトを開いた。
寝て、起きてしまえばまた一日が始まる。
夢を見れたらいい。この時だけでも。
ありえないと切り捨てた、本当は信じたい夢物語を。
「そういう人を待ってたんだよ」
小説の文字を目で追いながら、瞼が落ちていく。
まどろみの中で、不思議な声を聞いた。
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「えーと、サエキくん? タカヤくん? どっちで呼べばいいかな?」
ふわふわとした闇の中で、男の声が耳に届く。
確か俺は部屋に鍵をかけ、布団に潜っていたはずだが。不法侵入か。
盗人の類なら話しかけはしないだろう。強盗か。
薄目を開けると、そこに居たのは身体が若干発光している成人男性だった。
強盗かと思いきや、武器になりそうなものは持っていない。
「あんた誰?」
「え、ほらあれだよ、君の好きな小説のお約束」
「小説……ああ、神様が現れて残念ながらあなたは手違いで死んでしまったので異世界でチートライフを送ってくださいとかいう」
なるほど夢か。目の前の男は自分の脳みそが作り出した神で、俺は今から異世界に行く夢を見るのだろう。
いいね。朝になっても目覚めずそのまま寝ていたくなるような内容だ。
「夢じゃないからね。ほら、足元見てみなよ」
「……俺?」
言われるまま足元に視線を落とす。
そこには、布団の中でぴくりとも動かない自分がいた。
「君の身体、そこで死んでるよ。なんなら呼吸も確認する?」
首にはおかしなほどイヤホンのコードが巻きついている。
情けなさすぎないか。これ寝相の悪さで自分の首絞めて死んだんだろうか、俺は。
「別に僕、手違いで君を殺しちゃったってわけじゃないからね?」
「あー、それはよくわかった」
スマホを見ながら歩いていたら車にはねられた並みの自業自得な死因ではあるが、目の前の自称神のせいではあるまい。
「死んでしまった君に、ちょっと頼みごとがあるんだけど聞いてくれるかな?」
「なんだ」
「異世界に行ってほしいんだ。もちろんスキルはあげるよ」
神のせいで死んだからお詫びチート、という展開ではなく、死んだ君に依頼がしたいから代わりにチートをあげるね、というパターンのようだ。
「地球よりずっと文明が進んでない世界で、魔物も居るし小競り合いみたいな戦争も続いてるし、面倒な舞台ではあるんだけどね。できる限り転生先の要望には応えるから、頼むよ」
スキルだけ渡してそこらの森に放り出す、というわけではないらしい。
あちらが頼みごとをしている立場だからかもしれないが、意外と親切である。
「転生したら、幼児からスタートなんだろう?」
「まあ、基本的にはそうなるね」
「なら、ひとまず成人するまでだけでも食いっぱぐれなくて済む程度の家柄を希望したい」
「オッケー、貴族スタートだね。他には?」
まだ頼めるのか。金持ちの家に生まれてスキルが手に入ることが確定しているだけでも結構なことだとは思うが。
「他に? ……どのくらいまで要望を聞いてくれるんだ?」
「100ポイント分ってとこかな」
「ポイント?」
なにやらRPGの二周目スタート時みたいな話になってきた。
「そうだなあ、あとで説明するけど、今ポイントが100ポイントちょうどあって、貴族転生で20ポイント、王族転生で50ポイントって感じ。逆に奴隷転生だと手持ちポイントが200に増えたりもするけど」
「ハードモードになればなるほど選べるスキルが増えるのか?」
「いや、スキルは選ぶようなものじゃないし。余ったポイントの使い道は、メニュー画面の改造とか、マップ機能の拡張とか、あと容姿や無病息災とかそういうのかな」
それなら、貴族転生は撤回しなくてもいいだろう。
残り80ポイントで要望を聞いてもらえれば良い。
「どんなゲームなんだ? それによってポイントの使い方が変わってくる」
「あ、そっか。じゃあ僕の頼みごとの方を説明するね」
先ほどのポイントの説明についても、この自称神の頼みごとにかかわってくるのだろう。
どこから話そうかな、と視線を泳がせる神が言葉を選び終えるのを待つ。
「今ね、神の間でゲームが流行ってるんだ」
「ゲーム?」
「日本から一人ひとつ、死んだ人の魂を拾って、異世界に転生させるゲームさ」
Web小説で流行っている展開、まさかの神様世界でも流行っていた件。
スレ立てしたら2レスくらいで落ちそうな内容だ。
「……ふうん」
「あれ、怒らないんだ? 人の魂を遊びなんかに使いやがってみたいな」
「怒った方がいいのか?」
「いや、ありがたいけど。僕の友達はそうやっていきなりキレられて、面倒になって放り出したって言ってたからさ」
それは、人選ミスだろう。
この手の話に正義感溢れる人間突っ込んだら物語が崩壊する。
アニメオリキャラなら原作レイプとか言われてしまう悪手だ。
「どのみちここで拒否しても俺はもう死んでるんだろ。なら少しでも面白い方を選ぶさ。まあ、悪趣味ではあるな」
「僕だって好きでやってるんじゃないよ。でもほら、君の世界にだってあるだろ、流行りものに乗ってないと話題についていけなくてハブられちゃうこと」
「……あるが」
そりゃもちろんあるが、そっちにもあるのか、神様世界にハブだのいじめだの。
そして神ですらそれに屈してしまうものなのか。
「もう分かるだろうけど、世界の危機とか巨悪を倒すとかそういうんじゃないんだ。神託じゃなくて個人的なお願い事」
「ああ」
「端的に言うと、僕とタッグを組んでゲームに参加してほしい」
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