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拉致とつがいと子作りの話(4)
寝て起きてみたら、そこは宿屋ではなく地下牢の中だった。
これは、誘拐というやつか。カツアゲに続いて、ここ最近事件続きな気がする。
透がびっくり宝石人間なのがもうバレてしまったのかもしれない。
そうでなくても、宝石の換金量を見られていたら金持ちの家柄だと思われそうだ。
出所を探られることもあるだろう。
『透を浚ったのは顔を隠した男三人だな。ジュエリット族がどうこうって言ってたぜ』
(そうなんだ。じゃあ人違いで誘拐されたのかな)
こういう時、夜眠る必要のないウィルが状況を説明してくれるのはありがたいものだ。
『一応、熟睡してる透がその場で消えたら怪しまれると思って転移は控えたが……どうする、逃げるか? それとも情報収集してから脱出するか』
(勝宏に朝マ○ク頼まれてるから帰るよ。もうちょっと寝たいし……)
『了解。じゃあ帰るか』
寝ぼけ頭でそんな回答をしてしまったが、ウィルは特に責めることもなく転移でベッドまで運んでくれた。
本件に関してはもう一眠りしてから、ハンバーガー買いに行きがてら考えさせていただきます。うん。
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もぬけの殻の地下牢に憤慨したザンドーズは、例の「ジュエリット族と一緒にいた少年」とやらのもとを確認してくるよう部下に指示を出した。
一緒に眠っていたというなら、おそらくその少年はジュエリット族の協力者か何かなのだろう。
今回の脱走にも関わっている可能性がある。
ザンドーズの推測は当たっていたようだ。
レネギアまで調査に行かせたところ、少年のそばには、そのジュエリット族が何食わぬ顔で戻ってきていた。
確認の際、部下には風景記録のマジックアイテム「インスタントカメラ」を持たせたため、彼らの様子はザンドーズに正確に報告されている。
脱走した者の所在が分かったのは何よりだが、次に問題になるのは脱走の手段である。
牢には鍵がかかったまま、どこも壊された様子もなく、穴を掘ったようにも見えなかった。
まさか伝説の転移魔法の使い手か? それとも、あの少年が見かけによらず優秀なシーフ職で、鍵を盗んで助け出し、再び鍵を元の場所に戻したか。
縮地ならばともかく、転移魔法の使い手が現存するなど聞いたことはない。
それなら、後者――あの少年が助け出したという説の方が有力か。
少年とジュエリット族の男は、まるでザンドーズの手から逃れた出来事などなんでもなかったかのように、朝食ののちレネギアの町を観光に回った。
装備品を買う買わないで揉めたり、奴隷商に通りがかって奴隷契約についての世間話をしたりといたって平和な様子だったそうである。
「おい、シエラを呼べ」
傍に控えていた者に、金貸しの代わりに引き取った女奴隷を連れてくるように指示する。
魔術に関しては専門家同様の知識を持つ珍しい人間がなぜ奴隷になったのかは知らないが、この件について意見させるのには都合の良い存在だ。
「お呼びでしょうか、旦那様?」
しばし待って、連れられてきた女奴隷はザンドーズを恐れるでもなく発言する。
露出の多いぼろ服のままにさせているにも関わらず態度が一切変わらない、図太い女である。
「ジュエリット族……ああ、あのやたら属性盛り盛り設定のレッドデータ種族ですね」
「モリモリ……?」
「お構いなく。写真は拝見させていただいても?」
ジュエリット族の脱走騒動は、まだ近くに居るかもしれないと奴隷たちも総出で探させたこともあって、シエラも把握しているようだ。
報告とともに提出された小さな絵を、シエラに手渡す。
「これが「インスタントカメラ」で生成した絵だ」
「オウフ……ナマモノ」
「は?」
「あーいえお気になさらず。あのう、ジュエリット族は、同性でも構わずつがいになろうとするんでしたよね? そして、つがい相手のためなら超常的な力を発揮することもあるとか」
「そう聞いているな」
「この少年、ジュエリット族のつがいなのでは? そして先日捕らえた際には、少年を放置してジュエリット族だけを連れてきてしまったがゆえに、謎の手段で脱走された……ということも考えられますが」
なるほど、具体的にどうやって脱出したのかは知らんが、つがいと引き離したがゆえに超常的な力で逃げ出した、というわけか。
「だったらこっちで女の子あてがうのは無理でしょうね」
そうだった。それがありうるのがあの種族だったのだ。
捕獲の際にその場に放置してきたこの少年、こいつが既につがいになっているとしたら。
「……儂の手元で飼い、子を作らせることは不可能か」
このアホ種族、また子孫の残せなさそうな相手を選びおって。
ザンドーズが心中毒づいていると、シエラが怪訝そうに口を挟んだ。
「え? あーいや、精液採取して人工授精させればいいんじゃないですかね? 技術力的に無理かな」
「方法があるのか」
「あるでしょうそりゃあ。不能じゃなければ」
生娘と呼んで良い年齢・外見でありながら、女奴隷はこの話題にかけらも恥じらう様子を見せず淡々と答えていく。
「二人ともまとめて捕獲すれば脱走されにくいんじゃないです? で、とりあえず二人絡ませといて精液だけ集めるとか」
シエラの言う通り人工的に子孫が作れるなら、その案も悪くない手ではある。
一考の余地ありか、と考え込んだところで、部下が進言してきた。
「ザンドーズ様、よろしいでしょうか」
「なんだ」
「ジュエリット族には、魔宝石生成の特性があったはず。あの者の宝石に魔力は一滴もこめられておりません」
「……では、あの少年はまだつがいではない、と?」
「おそれながら、そのように愚考いたします」
確かに、ジュエリット族には魔宝石を生み出す能力もある。
ジュエリット族の生成能力は、子供のうちはなんのへんてつもない宝石を生み出すだけの代物。
しかし、運命のつがいを見つけた者は体内の魔力の質が変化するからか、生み出す宝石に魔力が宿るようになるのだ。
そうして生み落とされた魔宝石はそこらの魔物から取れる魔石よりも純度が高く、かつベースが宝石であるため美しい装飾品にもできることで有名である。
長らくジュエリット族が絶滅したと思われていたため、市場に出回っている分は非常に高値で取引される。
一方、今回盗賊たちによって提供された小さな宝石は、素晴らしい品質ではあったが、魔力を帯びてはいなかった。
となればまだ、例の少年とはつがいにはなっていないのだろう。
「ならば目の前の男をつがいと認識する前に、一刻も早く再捕獲し、儂が用意したつがいをあてがわねばならんな」
「逃げ出される前に、やつにも、生まれる子にも奴隷契約印を刻めば良いのです。やつには魔宝石を生ませ、子には宝石を。永久機関の完成ですよ」
脱走を図られる前に、奴隷として縛り付ける。
できるかどうかも定かでない「人工授精」とやらと比べて、実に分かりやすく確実な手段だ。
奴隷契約の呪印が扱える呪術士を用意しておかねばなるまい。
自分の推測が外れたからか、女奴隷は憎々しげにザンドーズの部下を睨みつけている。
仕方ない、シエラにも仕事を与えてやろう。
「シエラ、喜べ。つがいの大役だ」
「……え、これまさかうっかりオメガバに方向転換する流れ? でも私それ準拠なら間違いなくベータなんですけど……いや待て肉体スペックはアルファだな……」
「何を意味の解らんことを。お前はジュエリット族のつがいになるのだ」
「ああ……、了解です。……そっかそうだよね話の流れ的に……まあ今すぐ泡風呂に沈めとか言われるよかマシか」
全く、ぶつくさうるさい奴隷だ。
しかしこの女奴隷、この可愛げのなさを差し引いても有り余るほど見た目は良い。
子が生まれればそれ自身の商品価値も出ることだろう。
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「ていうかあの外見、二人ともどう考えても日本人なんだけどね。ジュエリット族じゃないっしょ……転生者確定だわ。それも生前外見再現型の」
計画のためには人手は多いほうが良かったんだけど。
あの感じじゃ、ジュエリット族だって思われてる方の子しか連れてきてくれなさそうだな。
転生者のステータスに期待、か。
再びジュエリット族の捕獲に入った男たちを見送りながら、シエラ――浦川詩絵里はため息をついた。
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