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幕間 【RPG推奨の異世界に乙女ゲー要素を持ち込んでしまった件~戦わなくても生き残れそう~】 (2)
さて、今日は父の仕入れについていくことになっている。
ウチはさほど力を持たない弱小の商人なので、積極的に仕入先に出向いて良い物を自力で取り揃えないと成り立たない。
目を肥やすという意味でも、重要な工程だ。
ちなみに、今のところウチの子供は私一人。
兄や弟がいれば、跡取りは必然的に兄弟に任されて私は嫁に出ることになるのだけれど、結婚の遅かった両親にはもうこれ以上子供が望めない。
嫁に行くか、家業を継ぐかの二択。
もちろん家業を継いで、婿を取るつもり。
まだ先の話だけれど、今のうちから父の仕事内容はしっかり勉強しなきゃならない。
これも平凡かつ平和で幸せな人生を送るためである。
乙女ゲームみたいな争いの起こりにくい舞台がいいなら、大陸中央のラークロクト国に移住するといいよ……と神様からアドバイスを貰っているのだが、家族を置いて自分一人他国へ移るのは気が引ける。
父の跡を継いだら、店舗をその国に移してしまうのもいいかも、くらいには考えているが。
父の雇った冒険者が四人。
父と御者を含めて、荷馬車には七人が同乗している。
荷物はほとんど乗せていない。
行きがけにも何か持って行って行商でもしたほうがいいだろうって?
もちろんそのつもりだ。
馬車には乗せていないが、運ぶべき荷物はすべて私が持っている。
この半年でクローゼット――ラノベ的にはアイテムボックスと言うべきか、乙女ゲームで言うところの収納機能をステータスのシステムメニュー画面に発見したからである。
収納魔法を使えるとなれば、どこの商人の家も欲しがる人材間違いなし。
私にチート戦力がなくとも、実家に必要な技能を持った異性を探すことができるだろう。
この機能を発見してからと言うもの、父は私が商人として家を継ぐことに諸手を挙げて賛成するようになった。
ステータス画面を見ることの出来ない父には「クローゼット」は収納魔法系のスキルとして理解されているようだが、冒険者になるわけではないのでまあ大差ない、と思う。
知識チートはしたくないけれど、馬車、とにかくお尻が痛い。
この揺れどうにかならないんだろうか。
そんなことを考えながらの道中、「気配察知」スキル持ちの冒険者さんが突然顔を上げた。
「盗賊だ! 十……十五は居る」
「おいおい、ちょっと多すぎるぜ」
「まだ襲撃体勢には入っていない。ガリア、魔法で数を減らせないか」
「私のMPだと、広範囲魔法は2発が限界だ。それ以降の戦いに一切参加できなくなる」
どうやらこれから盗賊の襲撃があるらしい。
冒険者を雇っているから必ず安全が保証されているってわけじゃない。
「すまない、ギルネルさん。応戦するから一度馬車を止めてくれるか。御者のおっちゃんもお嬢ちゃんも、馬車から出てきて一カ所に固まってくれていたほうが守りやすい」
雇っていた冒険者パーティーのリーダーが父に告げる。
大丈夫なのかなあ。
言われるまま全員で馬車を降りると、既に周囲には盗賊たちが待ちかまえていた。
剣を鞘ごと外して、リーダーが盗賊たちの前に立つ。
そして、非情な台詞が続けられた。
「俺たちは冒険者だ。護衛を放棄する」
「えっ!?」
車内での会話から、苦戦を覚悟のうえで応戦してくれるものと考えていたらしい気の良い父が、驚愕の声を上げた。
うーん、なんかそんな感じはしてた。
装備をその場に残して、冒険者四人組はそのまま撤退してしまった。
盗賊たちも、わざわざ戦闘のプロと戦って手勢を損なうよりは見逃して荷だけを狙った方が実入りが大きいと考えたのだろう。
特に背中から攻撃するということはなく、馬車と私たちの方へじりじりと詰め寄ってくる。
「ルイーザ! 逃げなさい!」
父が悲壮感をあらわにした表情で、私を突き飛ばした。
突き飛ばした……というにはちょっと力が入っていなかったようだから、押した、というのが表現的には正しいかもしれない。
「父さん……」
私のRank――レベルは6。
一人で逃げるなら、どうにかいけるか?
でも、父や巻き込まれただけの御者のおじさんを見捨てるのは、ちょっと。
何か役立つものはなかっただろうか。
私のスキル、お化粧とお勉強とダンスだもんなあ。
転生者の単独襲撃ばかり気にして、こういう「日常に潜む危険」について特に対策をしてこなかった私が悪いのかもしれない。
「女か。処女なら高く売れるぞ」
「お頭が手ぇ出さなきゃな!」
「違えねえ」
考え込んでいると、盗賊の一人が私に目をつけて腕を掴んできた。
「いやっ」
「る、ルイーザ!」
とっさに。
そりゃもう、ごく普通に日本人女性が少々強引なナンパ男に手を取られた時の抵抗、ってくらいのささやかさで。
「離して!」
男を突き放した、……つもりだった。
私の抵抗の手に払われた盗賊は、まるでバッティングセンターで打ち返された野球ボールのように、空高くへとうち上げられた。
「……あ?」
「へ?」
「……はい?」
沈黙が、あたりを包み込む。
しばらくして、高層ビルからの転落事故かと思ってしまうほどのスピードで男が地面に落ちてくる。
う、うええ、即死だよこれ。
じゃなくて。
なにこれ?
「……え?」
何が起こったのか。
少女のか弱い抵抗が、高レベル冒険者の全力の拳よりも強かった、としか言いようがない。
そんなわけがあるか、と判断した盗賊たちは、私がひそかに魔法を使って不意打ちしたのだと判断したらしい。
女一人に明らかなオーバーキルだろう手斧を振りかざしてくる。
カキン!
No damage!
私の肩から胸までを切り裂こうとした斧は、綺麗に弾かれた。
……今、なんかすごい音とポップアップの書き文字が見えた気がする。カキン?
「……うら若き乙女の柔肌からしてはいけない音が聞こえた気がする……」
ていうかうら若き乙女の柔肌は斧を弾かないよ!
弾くのは水だけにしようよ!
「私」の異常さに、盗賊たちが凍りつく。
「おい」
「アレだ」
「全身甲冑の男……」
「まさか、アレは、男じゃなくて――」
「……お、俺はもう逃げるぞ! あんな化け物に関わっていられるか!」
盗賊のうち一人が、そう言い放って脱兎のごとく駆け出した。
恐慌状態に陥った男たちも、一斉にほうぼうへ駆け出していく。
た、助かったのか……。
「ルイーザ、……あの力は?」
父が、私に声を掛ける。
命の危機だったのだ、御者のおじさんは腰を抜かしていても仕方ない。
「力? いや、別に普通だよ。えっと、ラン……レベルが6、みりょ、攻撃が120、防御が285、なんだけど……」
普通、だよね。
普通だよね。
神様にも普通にしてくれって言ったもの。
確かにレッスンでレベルが上がるから、同い年の少女の中ではきっと一番強いだろうっていう自覚くらいはあるけど、たかがレベル6だよ。
ダンジョンに潜っているレベル20の冒険者とかは、単純計算でも私の3倍は強いはずだし。
私の言葉に、父は目頭を押さえた。
「天才だ。うちの娘は、商才や収納魔法だけでなく、冒険者としての才能まであったのか……!」
あ、ああ、まあ、一度も魔物退治に行ったことのない娘がレベル6相当のステータスを持っていれば確かにびっくりするか。
驚かせちゃったかな。
「ルイーザ。落ち着いて聞いてくれ」
「うん」
「まず、一般冒険者のレベル帯は10、初心者は2や3だ。さっき逃げた冒険者のやつらも、リーダーのレベルは8だったと聞いている」
衝撃の事実でした。
……じゃあ私、「レッスン」だけで一般冒険者に近いRankに到達しちゃっていたの?
え?
いや、確かに地道にコツコツやるのは大好きだし、毎日欠かさずやってきてはいたけど、正直化粧して本読んでリズムゲームで踊ってただけだよ?
「レベル6になっていたなんて……毎晩部屋に篭って何をしているのかと思ったら、素振りでもしていたんだろう。夜抜け出して魔物を狩ったりもしていたんじゃないか?」
してないです。
光る床の上で踊ってました。
「父親としては、どうして夜中にそんな危険なことを、と咎めたいところだが……それはおまえの努力の証拠でもある。それよりも、攻撃と防御がどちらも三桁超えはすごいことだ!」
「へ」
「ステータス三桁超えなんて、上級冒険者でもようやく到達できる域だぞ」
血の気が引いた。
私、そういえば、一般人の平均ステータス値なんて、ここ半年、調べたっけ?
震える声で、父に訊ねる。
「……ちなみに、上級冒険者の平均レベルは」
「多くは20だ。合同パーティーでワイバーン討伐なんかを行うのが主な指名依頼のはずだぞ」
ああ。
あああ。
アーーーーーーーーーーーッ!
アーーーーーーーーーーーッ!
やらかしたーーーーーーーーーーーーーーーーッ!
「あ、あ……AP……HPやMPは、どうなの?」
「どちらも他のステータスとほとんど同じだ。上級冒険者でやっと三桁に到達する」
HPもMPも、言わなくてよかった。
HP2410とMP322の十二歳ガールは、ちょっと、化け物だ。
最前線でワイバーンを切り伏せる筋骨隆々の冒険者、レベル20台のステータスを、私が持っているのはヤバい。
そりゃ盗賊も吹っ飛ぶよ。
ゴリラだよ。
ゴリラじゃん。
Rank(レベル) :6
AP(HP) :●●●●●●●●●○(2169/2410)
LP(MP) :◆◆◆◇◇(194/322)
魅力(攻) :120
知力(防) :285
パフォーマンス(速) :109
「聞いてない……聞いてないよ……」
改めて考えてみても、メイクの練習で攻撃力、読書で防御力が上がるって、普通におかしいよね。
完璧にチート化を避けるつもりなら、違和感には徹底的に突っ込んでいくべきだった。
最初に記憶維持のまま転生というファンタジックな出来事を経験してしまったから、「たぶんそんなもんなんだろう」で済ませてしまっていたのだ。
避けてきたつもりだったけど、これもやっぱ、チートだったんだ。
20人ちょっといる異世界からの転生者、彼らに与えられる予定のチート能力の中で、もっとも無難で平凡で、「それなり」でいられるスキル。
「何が……何が「それなり」だバカヤローーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
突然叫び出した娘に父が何事かと目を白黒させたが、もうしょうがないの。
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