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スキルを作るスキル(1)

「大丈夫、次に目が覚めた時には、君は健康体だよ。安心しておやすみ」 「透!」  考えるより先に、カルブンクの能力で防護壁を練成する。  飛んできたのは消滅魔法ではなく、氷結の水属性魔法だった。 「駄目じゃないか、大人しくしていないと」  息をつく間もないまま、壁は跡形なく消滅した。  おそらく今のこれや、先ほど勝宏に向けて放たれた力が、噂になっている「不要物を冷気に変える能力」なのだろう。  勝宏が寸でのところで回避できたということは、能力の届く射程圏内が決まっている可能性が高い。  ウィル不在なのが痛いところだが、シミュレーションRPGのように攻撃範囲があらかじめ定められているなら……防ぎようはある。  顔を上げる。  リファスの凍るようなまなざしと、視線が交差した。 「腐っても転生者だね。やれやれ、君がその気なら仕方ない」  リファスが再び手のひらをかざす。  今の、水属性魔法とは様子が違う。壁の練成を念じて、その場を飛び退いた。 「面倒なスキルを使うね。それは初期スキルかい?」  問答に応えている暇はない。  防護壁が消滅する前に、もう一度床と同じ材質の壁を生み出す。  どのみち消されるのだ。  生成時間の短縮のため、障害物ひとつひとつはさほど大きくは作らない。  一瞬後れて、生成された壁が冷気とともに消えうせた。  勝宏がスキルで変身して、強化された拳をリファスへ打ち込んでくる。  リファスの左腕に氷のシールドが展開され、奇襲攻撃は失敗に終わった。  カルブンクの練成能力で広い屋内を逃げ回っているが、なかなか脱出できるほどの隙を作ることができない。  ぎりぎりの綱渡りは、透の転倒で終わることとなった。 「いっ……」  宝石化が進んでいなかった方の足に激痛が走り、その場に崩れ落ちる。  両足ともに石化してしまっては、もうここまでのような立ち回りはできないだろう。  膝をついた透に、リファスの術が発動する。  目を閉じかけた視界の端で、こちらへ駆け寄ってくる勝宏の姿が見えた。  駄目だ、今来たら。 「勝宏!」  彼が、リファスと透の間にその体を滑り込ませた。  ひやりとした空気とともに、勝宏の姿が見えなくなる。 「あ、あ……」 「……これは予想外だったけど。透くん、邪魔者もいなくなったことだし、ここらで私の提案を再検討してくれないかな?」  今起きたことを理解できずにいる――頭で理解できても、感情の追いつかない透にリファスが近付いてくる。  ここで彼が犠牲になったのは、間違いなく自分のせいだ。  かすれる声を絞り出して、言葉を紡ぐ。 「……勝宏、は」 「勝宏くんね。君が大人しく私の手中に収まるなら、彼も無事に返してあげるよ。私は、君の身体を治してあげたいだけなんだから」  そうか。  自分が抵抗しなければ、彼は戻ってくるのか。  なんだ、それなら迷うことはないじゃないか。  透に取れる選択肢はひとつしかない。  歩み寄り、透の顎を持ち上げてくるリファスの指に目を閉じる。  これまでとうってかわって、されるがままになった透を見て、リファスが笑う。 「いい子だ。最初からそうしていればよかったんだよ」  透の座り込む床の上に、青白い魔方陣が咲く。  瞼の裏に勝宏の笑顔を焼き付けながら、その時を待つ透の頭の中で。 『透、おまえさあ、本当に目離すとすぐ何かに巻き込まれてんな』  ウィルの声が響いた。 「ウィ、ル……」 『おいおい、やつには俺は見えてないんだぞ。声に出してどうすんだよ』  そうだった。  幼い頃からずっと傍にいてくれた、彼との約束のことを忘れてしまっていた。  ここで死んでリファスの言う「スキルを作るスキル」によって蘇生させられたら、自分の魂ははたしてウィルのもとへ行くのだろうか。 (ウィル、勝宏……、勝宏が) 『ん? 何かあったか? まだあいつの反応途切れちゃいないが、死にかけてるとか?』  途切れて、いない?  だって勝宏はあの時、確かに冷気に変わって。 『どうでもいいけどこのままじゃおまえ死ぬぞ。転移するからな』 「あ」  止める前に、ウィルの転移によって魔方陣の外へ連れ出されてしまった。 『ちっと遅くなっちまったからな。宿を出るなとは言ったが、透があいつらに宿から連れ出されるだろうなってのは予想ついてたし、こうなってる気はしたんだよなあ』  カルブンクの対価によるものだからか。  既に両足が動かないことを、ウィルには即座に見抜かれているようだ。  転移で部屋の隅に移動した透に、リファスが目を見開く。 「……いや、騙されたよ。今のは時間稼ぎの演技だったのかい?」  仲間を見捨てて平気でいられるなんて、透くんも結構したたかだね、と驚いた様子のまま続けてくる。 「しかし、なるほど。……君か、私の『片割れ』は」 「片割れ……?」  思考が鈍っている透が聞き返すのにも構わず、リファスが氷結魔法を撃ち出した。  それは難なく、ウィルの転移によって回避される。 「やはりね。この15年、スキルについてずっと調べてきたんだ。転生者に与えられているスキルのうち一部には、本来の50%の性能しか発揮できないものがある」  話をしながらも、氷結魔法が再度放出された。  まるで弾幕ゲームのような光景だったが、ウィルによる回避は的確だ。 「50%の性能しか発揮できないスキルは、もともとひとつのスキルだったのが「二分された」ものだと私は考えている。その場合基本的には、それぞれが転生者の手に渡って、似たような性能のスキルを持った転生者が二人存在することになる」

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