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どっちかっていうと性能じゃなくて迷惑度がSランク(2)
こちらが一つ話して、あちらが二つ話した。
彼らの持つ三つ目の情報のことも考えると、数だけならこちら側があと二つ情報提供をすべきである。
だが、腹の探り合いのできない勝宏や話術の得意ではない透――そもそも今は話せないが――には何を言えばいいかは判断ができない。
すべて詩絵里の采配だ。
詩絵里には、おおまかにウィルたちのことも話しているが……。
「医学の町の転生者、リファスのことは知っているかしら」
クラリーネに振られ、考えるそぶりを見せていた詩絵里が切り出す。
「ああ」
「私たち、彼と対立してしまったことがあってね。戦う流れになった時、謎の存在がリファスを一方的に攻撃して去って行ったのよ」
「謎の存在?」
「ええ。見てくれは、光をまとった――RPGに出てきそうな典型的な女神キャラよ。この世界の存在じゃないわ。……そう結論付けた理由までは、現段階では話す気はないけどね」
あの女神もどきの話らしい。
直後に気を失ってしまった透には記憶もおぼろげだが、大きな翼を持つ女性だったように思う。
「それは、黒い衣服を着ていたかい?」
「いいえ。白基調でギリシャ風の衣装だったわ」
アルスラッドが何気なく訊ね、詩絵里がそれに首を振る。
「聞いた話だけど。口ぶりからすると、リファスもマーキングのたぐいのスキルだったみたいよ」
詩絵里からの情報を咀嚼していたクラリーネが、ふむ、と小さく頷いた。
「じゃあ、次も話してやろう。神々のマーキングに使われている可能性のあるクソスキル……俺たちはそれを、種子(SEED)スキル、Sスキルと呼んでいる」
「種子スキル……」
「まあ、他もあえて区分けするなら、サブスキルとして転生時に複数選択できたものがCスキル、安価なポイントで後天的に手に入るスキルがUCスキル、高額なポイントで手に入れるのがRスキルってところだな」
俺の<サイキック>はある意味、未来確定の効果もあるからな、Rスキルに分類されると見ていいだろう。
クラリーネが若干誇らしげに胸を張った。
「全く嬉しくないSランクね……」
「不思議な話だろう? おまえらが遭遇した悪の秘密結社みたいな連中は、Sスキルそのものではなく、Sスキルを覚醒させるための追加要素を種子と呼んでいるんだ」
と、そこで会話を中断させるがごとく、透の身体に異変が起こった。
異変というには、パーティーメンバーの皆さんには最早おなじみのあれである。
「あ……」
「あら、男の方の透くんおかえりなさい」
「ま、毎度お騒がせしてます……」
クラリーネが飲み残したコーラを勝手に飲んでいたアルスラッドが、そのまま向かいの勝宏に向かって吹き出した。
「うわ、きたねえ!」
「……き、君は、あれかな。クラリーネと同類なのかな」
女性にはていねいに、勝宏――おそらく男性のことはぞんざいに扱うのが基本スタイルらしいアルスラッドからすると、透はクラリーネ同様扱いにくい体質だろう。
ぶっかけられたコーラを服で拭いている勝宏と、目を白黒させているアルスラッドを綺麗に無視して、クラリーネが席を立った。
「おまえは、透だったな」
今、<サイキック>の未来視が発動したんだが。
そう前置いて、ロッカーからサイフを取り出す。
「はじまりのエデンには気をつけたほうがいい。でなければおまえは、大切な存在を自らの手で殺すことになる」
「……はじまりのエデン? なにその絶妙にダサいネーミング」
「知らん。そういう名前の場所があるらしい。そこにそいつが入り込むと、この世界にとってよくないことが起こる」
「未来視に、そう出たのね」
「ああ、もうタイムアップだ。俺は飯を買いに行く」
それだけ言い残して、マイペースな受付嬢が部屋を出て行った。
やれやれ、とアルスラッドが肩を竦め、同じように席を立つ。
尖塔まで再び転移アイテムで送迎してくれるらしい。
『ていうかあの部屋、やけにオカマ臭かったな』
塔でルイーザの帰りを待っていると、ギルドに居る間黙っていたウィルが話しかけてきた。
(ええ……クラリーネさんのこと? ……それとも俺?)
『ちげーよ。おまえらは二人とも身体は女だったろうが。男の体臭を香水で誤魔化したあのオカマの臭いがしてだな』
(あのオカマって……?)
『闇のだ。俺やセイレンなんかと同類だな』
(前に言ってた、引きこもりの悪魔とは違うの?)
『あっちは光のだ。両方臭い』
一応は彼の同胞だろうに、さんざんな言われようである。
『はー、これで風のがこっちの世界に居れば、六人全員集合じゃねえか。同窓会でもしろってか、冗談じゃねえ……』
(……あの、ちょっと気になったんだけど)
『なんだ』
(ウィル、前にリファスさんと戦った時――リファスさんのスキルを、自分の劣化コピーだって言ってたよね。セイレンも似たようなことを話してたんだけど、何のこと?)
以前ウィルが転移魔道具を月とすっぽんと評価していたように、リファスの「転送」も自分のそれより劣る……という意味で表現したのだろうと軽視していたが、セイレンから<暴食>が彼女の恋人の模倣であると聞いてふと思い出したのだ。
『ああ……俺たちは――こまごましたのはそれなりに居るが、同じ階級の悪魔は六人なんだよ。俺は灯火、献身と怠惰。セイレンは水待姫、道徳と嫉妬。カルブンクが脈動核、純潔と色欲を司る。他にも、戦風のやつが節制と暴食を、陽光星のやつはちょっと特殊だから置いとくが、最後に常闇が忍耐と憤怒だ』
俺の専売特許は時空を渡ることだが、セイレンは状態異常特化だろ。
カルブンクが練成、あとおまえは会ったことはないだろうが、風のやつが戦いに特化していて、闇は再生、光が……あれはなんかいつも引きこもっててよく分からん。
聞いた話じゃ、カルブンクと趣味が合うんだってよ。
彼は世間話の延長程度に考えているのかもしれないが、透にとってはノートパソコンにまとめられた七つの大罪のオンパレードで不安があおられるばかりである。
(それって……)
『どうやらこの世界には、俺たち悪魔を模して、人間をベースにレプリカを作ろうとしている野郎がいるみてえだな』
そして、そのレプリカ転生者には、それに通ずるようなスキルが割り振られている可能性が高い。
……それがクラリーネの言う、「Sスキル」なのだろうか。
(そのこと、詩絵里さんに話してもいい?)
『好きにしろよ。今まで聞かれなかったから話さなかっただけで、別に秘密でもなんでもねえしよ』
「詩絵里さん」
「どしたの透くん」
透の用意したティーポットから紅茶のおかわりを注ぎつつ、詩絵里がノートパソコンを弄っている。
勝宏は難しい話で頭を使ったからか、現在ソファで熟睡中だ。
「タイミング悪く声が出なくなってしまったので、話せなかったんですが……アルスラッドさんが倒した魔物の転生者――セイレンが言うには、<暴食>の転生者だと」
「そう……ありがとう。受付嬢の話の後でそれが聞けたのは幸運だったかもしれないわね。彼女たちも、まだ信用できないところあるし」
透の話を聞きながら、彼女がノートパソコンに文字を打ち込んでいく。
「それから、ウィルに参考になるかもしれない話を聞きました」
「話してちょうだい」
促されるまま、たった今ウィルに聞いたことをそのまま述べる。
少しの時間を置いて、詩絵里がなるほどね、と息を吐いた。
「でも、これではっきりしたわ。勝宏くんのスキルも、おそらく私のスキルも、七つの大罪のどれかにスキル成長する。どの大罪にあたるかも、だいたい見当がつくわね」
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