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どっちかっていうと性能じゃなくて迷惑度がSランク(3)
やはり、勝宏も詩絵里も大罪スキルに関わることになるらしい。
詩絵里が詳細を続ける。
「リファスの言葉と<暴食>の状態を考えると……Sスキルを持っているのは一種類につき2人。
<暴食>には、たぶん「捕食による姿の模倣」チートの転生者と「捕食による能力の模倣」チートの転生者とかが居て、
両者が何らかの方法で争い、敗者は勝者にスキルを奪われたと考えるのが自然ね。
そして、分かたれたSスキルの両方をそろえた転生者が、<暴食>の使い手となる」
リファスのいう「50%の性能しか発揮できないスキル」という発言からしても、詩絵里の推測は当たっている可能性が高い。
ということは、他の大罪にも適合者が二人いて、計14人の転生者が<大罪スキル>になりうるSスキルを所有しているわけだ。
「で、暴食は、完全体……合体済みの状態で倒されているから候補から除外。
嫉妬が本来のルートを行くなら、ウルティナの持つ防御系のスキルがそれに該当するはずね。
怠惰はリファスのような転送・転移系。
勝宏くんも私もそれらに近いスキルじゃないから、嫉妬と怠惰も除外。と考えたんだけど、どうかしら?」
「は、はい……」
「次に、憤怒が「再生」なら、転生者はモノを修復するか、もしくは回復補助系のスキルだと思うし……これも除外ね。
残りの3つの仕様からして、私たちに一番近いのは――」
透に考察内容を話しながら、ノートパソコンに詩絵里がぱたぱたと入力していく。
そして、パソコンの画面を透に向けて見せた。
「私が「色欲」だわ。私の解析スキルでは、分析した魔道具をそのまま再現できる項目があるのよ。
でも、壊れた魔道具から本来の構成情報を解析して修繕するような項目はない。
……修理ができないんじゃ、私のは「再生」じゃないわ。劣化版の「練成」とみなすことができる」
・傲慢(スペルヴィア)……仕様不明。候補者:【勝宏?】、【不明】
・憤怒(イーラ)……嫉妬と似た条件下で発芽する模様。修復もしくは回復補助スキル。候補者:【不明】、【不明】
・嫉妬(インヴィディア)……発芽条件は「不幸」? 今回ウルティナに使われようとしていたもの。どこかに飛んで行った。防御系スキル。候補者:【ウルティナ】、【不明】
・怠惰(アケーディア)……転移系スキル。候補者:【リファス】、【不明】
・強欲(アウァーリティア)……仕様不明。候補者:【勝宏?】、【不明】
・暴食(グーラ)……捕食による模倣と吸収スキル。候補者:既に脱落済み。
・色欲(ルクスリア)……練成系スキル。候補者:【詩絵里】、【不明】
「勝宏くんは、消去法でしかないけど。私のスキルと全く系統が違うし、一番近いと思われる<暴食>に既に該当者が居て脱落済み……そうなると、いまいち仕様の分からない「傲慢」か「強欲」のどちらかが、Sスキルとして割り当てられてるはずよ」
よりによって、ウィルから情報が得られなかった正体不明の不気味な二つが勝宏のSスキルになってしまった。
詩絵里のステータスはまだ文字化けを起こしていない。
<暴食>の転生者は息絶えた時、ステータス欄が文字化けしていた。
そこから考えても、詩絵里よりも勝宏の方がスキル成長の進行度が高い、気がする。
「ただ、神々が転生者ゲームの裏でウィルたちのレプリカを作ろうとしてる……と考えるのはいささか早計ね。
レプリカを作ろうとしている者がいるのはほぼ間違いないでしょうけど、それは神々とは別の存在かもしれないし、ここを結論付けるのはまだ早いわ」
大口を開けていびきをかいていた勝宏が、ソファの上で器用にごろんと寝返りをうつ。
目を覚ましたのかと思ったが、しばらくして再び、があがあといびきが聞こえ始めた。
「勝宏には、どう話せばいいでしょうか」
「……正直、詳細は言わない方がいいかもしれないわね。彼の場合、何がきっかけで暴走するか知れない状態だもの」
彼女のその判断は、勝宏のスキル欄が<暴食>の転生者と同じく文字化けしていたからだろう。
「文字化けの件は、詩絵里さんは大丈夫なんですか?」
「私のはまだ文字化けしてないし、ていうかまず進化条件のとこもリンク貼られてないのよね」
<暴食>の人はスキルの部分に限らず、ステータス画面全体が文字化けしてたしね。
続けられた話でなんとなく意味は理解できたが、リンクとは。
「あの、すみません、リンクって……?」
「リンク……えっ、通じない? マジ?」
「ごめんなさい、その、勉強不足で……」
スマホのアプリゲームで「リンクスキル」とか「リンクシステム」とか、仲間内同士で相互作用するタイプのコマンドに見かけるくらいだろうか。
英単語自体は繋がるという意味のはずなので、進化条件が繋がっていない、条件が揃っていないという意訳で……合ってるかなあ。
「い、いやいや、いいのよ。そうよね、最近の若い子、ホムペ……個人サイトとか作らないものね……。えーっと、そうね、詳細を見ようとしてスキルのとこをタップしても、詳細画面が出てこないって話よ。たぶんレベル解放か、進行度の問題でしょうね」
なるほど、ウェブデザイン関係の専門用語だったらしい。
これまで料理と園芸と読書に振り切った人生を送っていた透に縁がなかったのも頷ける。
「リファスの言い方からすれば、進化してすぐ暴走すると決まったわけでもなさそうだけど。見た目が魔物な赤の他人ならまだしも、仲間がそのままの姿で狂化したら、戦いづらいったらないわね」
「そう、ですね……」
「でも、進化条件も暴走条件も分からないままだもの。今から気をつけるったって、何に気を配ればいいんだって話でしょ? 勝宏くんも、ルイーザもだけど……ああいうタイプは、へたに悩み事増やして動きを鈍らせるのは得策じゃないわ」
詩絵里の言う通り、現状透たちにできる対策はない。
勝宏の様子がおかしくなる瞬間を見ていたのは、透とセイレンだけだ。
とにかく、あの日のようにならないよう、勝宏の言動を注意深く観察しておこうと思う。
彼女の言葉に頷いて、ずり落ちたブランケットを勝宏にかけなおしてやる。
詩絵里の方から、パソコンのタイピング音が途切れた。
ファイルの保存を済ませて、ノートパソコンが閉じられる。
「これ以上、現段階の情報だけで考えていたって仕方ないわ。一旦切り上げね。ルイーザも帰ってくるようだし」
そう言いきるのとほとんど同時に、部屋の扉が開かれた。
「おっ! 皆さんおかえりなさいー! 聞いてください、あれからダンジョン2つ踏破したんですよ!」
噂をすればなんとやら。
ルイーザが部屋に入りながら、元気いっぱいに戦果を報告してくる。
「ルイーザこそ、おかえりなさい。他のお仲間は?」
「皆さんが帰ってきてても、もうちょっと付き合ってくれるそうです。扉の間に待機してもらってますよ」
アルスラッドの派遣してきた人員は、こちらの部屋には入ってくるつもりはないらしい。
あくまでビジネスライクな姿勢を貫いているようだ。
「なので引き続き潜ってこようかなって思うんですけど、あの……皆さんにちょっとご相談が……」
「なに?」
「それが、私の持ち出した在庫がだいぶ品薄になっちゃってまして……私の実家まで行って、半分くらい貰ってきてくれませんか?」
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