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チートスキル持ちが勇者の息子だか孫だかに転生したら環境チートに分類されるんでしょうか(4)

 調理時間まで考えると、勝宏たちはもうほとんど食べ終えてしまった頃だろう。  付け合せを今から用意するというのも違う気がする。  少し考えて、鶏肉の余りから鶏茶漬けを作ることにした。  かつおぶしやしょうゆで味を調える、あっさりした味は揚げ物のあとにはいいかもしれない。  それから、ルイーザたちに頼まれた食後の飲み物だ。  ここまでは自宅にあるものだけで用意ができる。  最後に詩絵里について。  詩絵里からの指定はなにもなかったが、メモをもらったていを装っている手前、何も持たずに戻るわけにはいかない。  メモを書いた時間からして、5、6個は何かを持っていく必要がありそうだ。  ルイーザたちと同じく飲み物で1つ埋まるとしても、あと4つから5つほど。  コーヒーをいれながら考えて、旅行に持って行きそうなものをチョイスすることにした。  先に調理に取り掛かってしまったので、今から店に買いに行くには時間が足りない。  家の中にあるものから、市販品の頭痛薬と風邪薬。  脱衣所の棚から、ボディソープ、シャンプー、コンディショナー。  特売で新しい物を買ったばかりでよかった。  そして、ウェットティッシュ。  これらを持っていけば少なくとも怪しまれることはなく、アイテムボックスに収めることができ、さらに今後あちらで役に立つかもしれない。  自分なりの成果に満足して、お茶漬けやコーヒーとともに何度目かの転移でダンジョンへ向かう。 「わあ、しめのお茶漬けですか!」 「しめのって……ルイーザあなたね……」  透が手にしていたものを見て、ルイーザが実年齢を疑うような台詞を吐いた。  しかし、女性の年齢に関しては、基本的に触れてはならないものだ。  透は彼女の言葉を聞かなかったことにして、全員にお茶漬けと食後のコーヒーを配っていく。 「それから、その、詩絵里さん、俺なりに考えて、持ってきたんですけど……」  買い物袋に放り込んで提げてきた携行品の類を、詩絵里に確認してもらう。 「さすが透くん! 勝宏くんに同じこと言ってもここまで気が効くことないわよ」  袋の中身を次々とアイテムボックスに移しながら、詩絵里は透の居ない間の経緯を説明してくれた。  エリアスにはルイーザの時の説明と同じく、屋内限定の日本への転移が可能なスキルと言っているらしい。  自宅とスーパー、ドラッグストアなどには転移が可能で、外に出ることは出来ず、外界に接触することは不可能。  電気や水道などの自宅の設備はそのまま使える……という設定のようだ。 「で、食事の準備とか日本製品がほしいときとかは透くんに頼んで、戦闘は私たちがメイン火力、っていう役割分担であることも説明済みよ」 「わ……わかりました。ありがとうございます」  ここまで、あたかも事実を再確認がてら細かく述べたかのように設定を示してくれている。  すると詩絵里と透の会話に、エリアスが入ってきた。 「透……さん? と呼ぶべきかな?」 「あ、えと……と、透でいいです」 「そうか。透、詩絵里から聞いた君のスキルについてなんだが……本当に日本に転移しているのではなく、日本に良く似せられた亜空間に転移しているんじゃないか?」  エリアスの推測に、透が口を開く前に詩絵里が口を挟む。 「それなんだけど、こちらの貴金属、宝石なんかをあちらのお金に変換できるみたいなのよね。 それと、前世の銀行口座とかもステータス画面から使えるみたい。 スキルレベル不足で外に出してもらえないだけなのか、外の世界が存在していないのかはまだ結論出せないわ」 「そういうことか……。にしても、便利なスキルだな。ポイント取得リストにはめちゃくちゃ高額なスキルのあたりに日本製品を持ち込めるネットショップスキルがあったが、あれの進化系か?」 「ごめんなさいね、そこまではパーティーメンバー以外には教えられないわ。転生者ゲーム最終戦時までお互いに手を出さない契約を交わしてくれるなら、教えてあげないでもないけど」  ねえ、透くん? 詩絵里が急に透を振り返るので、反射的に頷いてしまった。  頭脳戦や腹の探りあいはほとんど詩絵里に任せきりの姿勢である。  急に振られると緊張してしまう。  詩絵里はどうやら彼女が手を出せない際の臨時の頭脳要員として透を見ているようだが、買いかぶりすぎだと物申したいところだ。  ごめんやっぱり無理です。 「俺のスキルは教えられないが、うちのパーティーは転生者は俺だけ……っていうのは話しておくよ」  エリアスが、詩絵里と透にだけ聞こえるように声を潜めた。 「仲間のあの二人にはまだ、俺が前世の記憶を持ってるとか、別の世界の人間だったとか、そのへん話してないんだ。バレたくない」 「あら、そうだったの。わざわざ弱みを見せてくれたのは何が目的かしら?」 「そういう話題になったら、うまいとこ口裏合わせてくれると助かる。あわよくば、透くんのスキルで入手してほしいものがある……かな」 「お、俺ですか」  エリアスが接触してきた”目的”が透にあると聞いて、思わず身構える。  彼は、何かしようってつもりはない、と前置いて、手を合わせた。 「買ってきてほしいものがある。……できれば、業務用とかを、大量に」  果たして、頼まれたおつかいは……いわゆる、避妊具であった。  恥ずかしそうに教えてもらったエリアスの勝利条件が、まさかの「独り身で勝利」。  ゲームで勝利したければ、結婚も子供も駄目。  しかし、パーティーメンバーの女性二人から関係を迫られており、手を出すに出せなくてのらりくらりと誘いをかわしていくのにも限界がきていたのだという。  それで、ネットショップスキルを追加取得してコンドームを購入する、そのためだけにイベントを頑張っていたのだそうだ。  そんなに頻繁に使用する予定はないが、大量に所持しておけば転生者ゲームが落ち着くまでの間はもつだろう……と考えたらしい。  詩絵里が先に述べていたことを真に受けたエリアスは、「変換レート的には、これで足りる?」とアイテムボックスから大量の金品を手渡してきた。  転生者同士であれば大量の金品も即座にアイテムボックスへ収納が可能なのだろうが、透にはアイテムボックスなどという便利な機能は備わっていない。  詩絵里に視線で助けを求めると、彼女が「多すぎるわ」と断ってくれた。 「そうね……これとこれだけで大丈夫よ。ね、透くん?」 「は、はい」  詩絵里が、アイテムボックスに収納せずとも違和感のない――純金とプラチナの腕輪をひとつずつえり分けて、透に手渡してくる。  実際に換金してきた方がいいんだろうか。 「ていうか、おつかいは後でもいいかしら? 透くん、さっきからショップとダンジョンの往復してばかりでご飯ろくに食べれてないのよ」 「ああ、そうだったな、すまなかった。35層目以降も出来る限り俺たちのパーティーで対応するから、ついてきてくれて構わないぞ」 「ありがと。じゃあ遠慮なく寄生させてもらうわね」  そして、透たちのダンジョン攻略はめでたく公認の寄生となるのであった。

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