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引きこもりに適したチート能力(1)

 これまで通り寄生してもらって構わないと言われたが、一緒に食事をとってしまうともう距離を置いてついていく、ということがかえって難しくなってしまう。  クロの背中に乗った状態でノートとペンを手にした詩絵里に、先ほどのかき揚げの作り方を話しながらエリアスたちとともに先へ進む。  透の言葉はそのまま詩絵里が書き写してくれているが、その様子をネールとヤヨイがそばでしっかり聞いているため透の心臓に無駄に負荷がかかっていたりする。  35層のフロアボスは、エリアスが出るまでもなく、ネールとヤヨイだけで瞬殺だった。  聞く限りでは、この世界の一般的な冒険者の実力では10層目のフロアボスでさえ苦戦するという話である。  転生者によってレベリングをされると、ここまでステータスが伸びるものなのだろうか。  透は何をやってもレベルが上がることはなかったが。  きっと彼女たちの努力の結果だろう。 「これで全部ね。複写するなりなんなり好きにするといいわ」  書き上げたノートのページをべりっと破って、詩絵里がレシピを手渡した。  受け取ったネールが、ヤヨイとともに紙切れ一枚を血眼で覗き込んでいる。  恋の力ってすごい。 「ありがとう! エリアスの故郷の味……絶対マスターしてみせるんだから!」 「お手数をおかけしました。あとは私自身の力で頑張ります」  言って、二人は再び前線に戻っていった。  エリアスが困ったような、それでいて少し嬉しそうな表情で頬を掻く。 「俺が遠い国の出身で、故郷に戻ることは難しいっていうのは二人には話している。 俺が米とか醤油とかが日本人の手で高値で売られてたりするとつい買ってしまうから、故郷の料理を食べさせてやろうって気持ちでいてくれてるんだ」 「さっさと転生者ゲームを引退してしまえばいいんじゃないの?」 「引退して山奥に引きこもって、それで安全が確保されるんならそうしてるさ。 こうやって二人のレベリングをしてるのも、転生者によって彼女たちが殺されてしまわないようにするためだよ」  詩絵里との話を聞いている限り、エリアスもゲームのことさえなければ、本来は敵対する必要のない良い人だ。 「シェルターなんかを用意できればいいんだけど、そうもいかないわね」 「シェルター?」  前線の二人を見守りながらのエリアス、ちょくちょくフェイクを挟みながら自然と話を続ける詩絵里のあいだに、勝宏が首を突っ込む。 「転生者ゲームを降りたいのに、他の転生者からの襲撃が怖くて降りるに降りれないって人。 結構居るはずでしょ? 転生者が外から襲撃できないような建物を作ってしまえたら、そこに篭れるじゃない」 「なるほど。この世界において、現在転移の手段はマジックアイテムの事前設置のみ……マジックアイテムが事前に設定されていない場所を選んで家を建て、誰も侵入できない状態にすればいい、ということか」 「いや、誰も入れないんじゃ、自分も入れないだろ?」 「入り口を封鎖してしまう前に、屋内に自分のマジックアイテムを置けばいいじゃない。転移で出入りする前提の建物を作るのよ」 「ま、問題はその建物をどんな素材で作るかだ。転生者のチートスキルは馬鹿に出来ない。 絶対に壊れない金属とやらがあったとして、その「絶対」そのものを壊すのが転生者だからな」 「お、おお……?」  エリアスと詩絵里の二人にそれぞれ解説されて、許容範囲を超えた情報量にたぷたぷしながら勝宏が会話から離脱した。  目を回している勝宏の口に、先ほど自宅から持参したチョコレートを放り込む。  条件反射でもそもそ食べ始めた。 「うまい」 「あ、透さん、私にもくださーい!」 「どうぞ。……でも、転生者に壊せない建物、なんてあるのかな……」 「壊せない建物? あるじゃないですかここに。ダンジョン」  勝宏に次いでチョコレートをせがみに来たルイーザが、透の呟きを拾って平然と言い放った。  その言葉にああでもないこうでもないと議論していた詩絵里とエリアスが沈黙する。  ルイーザと勝宏が、チョコレートをもごもごしながら首を傾げている。 「確かに……ダンジョンは、壁壊して進んだりはできないな……」 「灯台下暗し、ね……」  閉口していた詩絵里とエリアスが、ほとんど同時に考えを呟き出した。 「でも、ダンジョンを使うといったって、ダンジョンに後から付け足した壁なんかは普通に壊せちゃうわよ」  私も氷のダンジョンの隠し部屋壊したし。  さらりと衝撃の事実を打ち明けられたが、詩絵里の補足には誰ひとり気にとめようとしない。  ダンジョンの隠し部屋を壊すくらい、転生者にとってはできて当然の芸当らしい。 「ダンジョンを使うなら、一部を利用するのではなくダンジョンそのものを自分の拠点にする必要がある、ということか……」 「そうなると、ダンジョン系のスキルを持ってる転生者が一番篭城に適してることになるわね」  結局私たちには真似できない方法ね、と肩をすくめた詩絵里に、エリアスが待ったをかける。 「いや……いけるかもしれない」 「心当たりがあるの?」 「ああ。……ダンジョンコアの所有者登録がされていない、天然のダンジョンを見つければ、いけるかもしれない」  エリアスが視線を寄越してくる。  透はその時ちょうど、三つ目のチョコレートの包みを開けて勝宏の口に追加で放り込んだところだった。 「透のスキルなら、おそらくどうにかなる。アイデア提供の代わりに、俺たちの分もダンジョンを見つけてきてくれないか?」  40層目のフロアボスも前線の女性二人が難なく撃破し、現在41層目。  移動しながらの相談は、ルイーザのアイテムボックスにあった契約のマジックアイテムを用いたうえで行われた。 「まず、ダンジョン系のスキルを持っていなくとも、コアの所有者になれればそのダンジョンに限り、管理が可能になる」 「ダンジョン系のスキル持ちは、ダンジョンを管理・改造できることよりも、コアを新規で作れちゃうのが長所なのね」 「そうなるな。ダンジョンコアの所有者登録自体は、誰でもできるんだ。 ほとんどの場合は、ダンジョン系のスキル持ちでないと管理者登録を行うフロアにまでたどり着けないものだが……」 「……透くんなら、いけるかもしれないってことね」  完全に蚊帳の外のつもりでいた透は、まさかの当事者である。

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