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たいへん失礼な先入観を持っていたことを懺悔します(1)※

 100層目の踏破とほとんど同時に、イベント終了の通知も来た。  といっても、透はステータスメニューなどという便利システムを搭載していないので、詩絵里たちの言葉で知ったことだ。  最後のフロアボスは少々手こずったようだが、それでも透たちの協力は必要とせず、エリアスパーティーだけでしっかり仕留められている。  最初から最後までただのお散歩に過ぎなかったクロは、詩絵里を乗せたままくあーっとあくびをしている。  その仕草、ちょっと勝宏に似てるね。 「イベントクエスト終了、現在集計中です……ランキング結果は十二時間後に再度通知いたします……遅いわね」  透にも分かるように、という配慮だろう。  詩絵里がわざわざ、通知内容を声に出して読み上げてくれた。 「リアルタイムでランキングくらい載せてくれてもいいのになー」 「そしたら、最終日に自分より順位が上の転生者を暗殺しに行こうとする輩が現れるわね。確実に」 「あー……」  そのあたりは、普段戦闘に参加したがらない転生者たちにも加わってもらえるようにと意図されているのかもしれない。  ルイーザあたりはイベント報酬があれば参加したかもしれないが、勝宏や詩絵里は他の転生者との戦闘が入る前提のイベントだと見送ったことだろう。 「よし、帰るか」  ステータス画面を確認しおえたエリアスが、ネールとヤヨイに振り返って声を掛ける。 「私たちも戻りましょ」 「そうですね。帰りもお願いしますねー」  詩絵里を乗せたクロの頭を、言いながらルイーザが撫でる。  ああ、恐怖の空の旅再び、なのか。  あのそれ、自分だけ転移で戻るのは駄目でしょうか。 「じゃ、とりあえず業務用のMでよろしく。俺たちの今の拠点は詩絵里に位置伝えてある」 「は、はい……」  避妊具の件を念押しして、エリアスがダンジョン踏破後に出てきた転移魔方陣に乗る。  Mサイズでいいんだ……。  クロの翼でひとっとび。  ウルティナに提供された尖塔の一室に戻ってきた一行は、明日以降の計画はのちほど立てようということで夕食後早々に就寝した。  透は、寝る前に頼まれていたものの購入だ。  寝静まった皆を起こさないように、そっと日本に転移する。  時間は21時40分、転移を使えばまだ開いている店もあるだろう。  引き受けたはいいものの、業務用ってどこで買うんだろう。  お恥ずかしながらこの歳になるまで全く縁のなかった消耗品である。  通常のものならコンビニや某総合ディスカウントストアに売られているという知識はあるが、業務用なんて入荷されているのだろうか。  少し考えて、手っ取り早く通販で入手することにした。  自宅のあまり使わないパソコンを開いて、コンドーム、通販、で検索をかける。  言われたとおり、エリアスには業務用のMサイズ。  勝宏には――。 「あ」 『どうした?』 「勝宏の……さ、サイズ、聞いてなかった」 『はいはい……一旦戻るぞ』  お手数をおかけします。  ウィルに連れられて、勝宏の眠る男部屋に戻った。  日中集まって食事が取れるリビングとは別に、寝室が男女で分けられているこの塔は、そこらで宿をとるよりずっと快適だ。  イベント終了後も貸してもらえるかどうかは分からないが、そのあたりは後ほど、詩絵里に聞いてきてもらう予定である。  片方のベッドで眠っている勝宏に近付く。  声をかけようかと思ったが、これだけ熟睡していると、声を掛けても揺すっても起きそうにない。  出直すべきかな。  でも、通販だと配達にも時間がかかる。  注文だけでも早めに済ませておきたい。  サイズが合わないと途中で外れてしまったり、逆につけるのが大変だったりする。  それから、あんまり気持ちよくない……らしい。  せっかく買ってきても、使い物にならないのでは申し訳ない。  どうしたものか、と考えていると、寝ぼけた勝宏が被っていたブランケットを蹴飛ばした。  ずり落ちるブランケットを拾い上げて、大の字で転がっている勝宏にかけなおす。  ……と、そこでふと、彼の股間に目が行った。  あれ、なんか、その……こんもりしてない?  思わず、かけなおしたばかりのブランケットをめくってしまった。  テントを張っている状態というか、なんというか。  夜間勃起……ま、まあ、考えてみれば勝宏も18だし、それくらいあるよね。ある。うん。  透もたまに、朝そうなっていることがないでもない。  普通のことだ。  普通の生理現象。  ……なんだろう、この衝撃。  正直、勝宏が勃起するという事実自体に驚いている自分がいる。  好きな人がいるという話は聞いていた。  その、例の彼女とうまくいったかもしれなくて、それで、避妊具を買ってきてほしいと言ってきたのも頭では理解していた。  けれど。  自分はまだどこかで、勝宏はそういう欲求に無縁で、子供みたいな「好き」だけを純粋にぶつけてくるような恋をしているんだと思っていた、かもしれない。 「勝宏……の……」  勃つんだ。  そりゃ勃つこともあるだろう18才なら。  いやでも、……勃つんだ……。  あ、いま見たら、サイズ分かるなこれ。  大きさを調べるため。  起こすわけにはいかないから。  できるだけ早めに注文したほうがいいから。  そんな、分かりきった建前を胸中で並べ立てながら、彼の下衣に手をかける。  ずり下げて、下着の布一枚を押し上げるそれを見る。  結構な大きさだ。  見ておいてよかった。  どう考えても、Mでは小さい。  同じ物を単純に二つ購入、ではきかなかったことだろう。  Lか。  まさかLL?  そこまでは、下着の中も見て、みないと。  おそるおそる、下着の中に指を差し入れる。  すぐに、指先にかたいものが触れた。  触るつもりはなかった、っていうのはもうほとんど嘘みたいなものだ。  指で引っ掛けた下着をおろして、飛び出してきたものの大きさに息を呑む。  起きない?  起きない、よね。  ルイーザに顔を潰されかけても起きなかったくらいだから、大丈夫。  きっと。  見るだけ、確認するだけのつもりが、太くそそり立つそれに、手が伸びる。  人差し指で輪郭をなぞり、中指、薬指。  その熱を軽く握り込んだ。  ゆっくり、握った手を動かし始める。  いけないこと、してる。  こんなの、今ここで勝宏が目を覚ましたら、大変なことになる。  目を覚ましたら?  どうなるんだろう。  分からない。  ただ、ぴくんと震えた勝宏のそれが、たまらなく愛しいもののように思えてしまう。  ベッドに膝をついて、彼の下半身に乗り上げる。  鼻先を近づけて、先端から溢れる先走りのにおいをかいだ。  くらくら、する。

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