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たいへん失礼な先入観を持っていたことを懺悔します(2)※

 吐息がかかるほどの近さに、彼のものがある。  自分が何をしているのか、彼と自分がどういう関係なのか、彼の好きな人のことも、その瞬間、全部が吹き飛んでしまっていた。  目の前のそれのことしか考えられなくなっている。  あとほんの少しの距離を埋め、下唇で触れた。  勝宏のにおいがする。  好きだ。  好きなにおい。  もっと。  次から次へとこみ上げてくる欲に抗えない。  先走りの液を舌ですくいあげて、舐め取る。  足りない。舌を使って鈴口を刺激すると、また溢れてきた。  唇をつけて、ちゅう、と吸い上げる。  かたくなっているそれを、全部飲み込んでしまいたい。  でもこんなに大きいのでは、深くまでくわえ込むのは無理だ。  根元から上へとなぞる。  裏筋をくすぐって、また垂れてきた汁を舌で追う。  勝宏の味。  勝宏のにおい。  熱も、かたさも、何もかもが透の理性を覆い隠してしまう。  たまらなくなって、亀頭を食んだ。  口内に入りきらない陰茎は、そのまま手を動かして愛撫する。  無意識のうちに、自分の腰もはしたなく動いていた。  口の中に勢いよく温かいものが飛びこんできた。  勝宏の……精液……。  うっとりとした気持ちで、吐精されたものを嚥下する。  残さず舐め取っていたあたりで、甘くまどろんでいた意識がふと鮮明になった。  ――自分は、今、何をしていた?  慌てて魔法で水を練成して、ハンカチを濡らして勝宏のものをていねいに拭う。  やってしまった。  まさか。  そんな。  乱してしまった彼の衣服を整えて、ブランケットを被せてリビングへ逃げる。  ソファに座り込んだ。  大丈夫。  勝宏は眠ったままだった。  証拠は隠滅した。  大丈夫。  と、そこで頭の中にウィルの声が聞こえてくる。 『おう、終わったか』 「え……あ……ウィル……み、見てたの」  見てたよね。  一緒にあの部屋来たもんね。  見たよね間違いなく。 『まあ、別に言ってやるメリットもねえしな。あいつには黙っといてやっけど』 「う……うう……」  勝宏の夜勃ちを見ただけで我を失うほど興奮するなんて、気付かないうちにそうとう溜まっていたとしか思えない。  あれ、最後に抜いたのっていつだったっけ。  ……思い出せないほどご無沙汰だった。  たぶん、きっとそうだ。  欲求不満が原因だ。  あああ。勝宏。  ごめん。ごめんなさい。 「なんで止めてくれなかったの……」 『あ? 俺は声掛けてたぜ。なんでか透の意識に入り込めなかったがな』  それは、つまり、自分があまりに夢中になりすぎてウィルの声が聞こえていなかった、ということだろうか。 「ウィル、に、日本に……」 『はいはい、シャワーか? おまえもシコるか?』 「うう……言わないで……」  勝宏のサイズは、ちゃんと覚えました。  あのあと透は、色々と野暮用を日本で済ませてしっかり通販でコンドームを注文し、自宅の寝室で眠ってしまった。  脳裏に焼きついた勝宏のものを思い返しながら自分を慰めるなんて、気まずいどころの話じゃない。  ……勝宏に対しても。  あんなことをしてしまっては、彼に合わせる顔がない。  ウィルに頼んで尖塔のリビングに手紙を置いてきてもらい、勝宏たちとは合流することなく単独行動開始である。  置手紙の内容は、頼まれたダンジョンを探してくる、というものだ。  翌朝には今後の方針を決める話し合いをしようと言っていた詩絵里には申し訳ないが、話し合いは透抜きで進めてもらうよう手紙にも付け足している。  どのみち、これまでも透は旅の行き先に口を挟んだことがない。  あくまでも、自分は同行しているだけの部外者。  転生者ゲームの当事者である彼らが決めたことに意見する立場ではないのだ。  勝手をしてしまっている自覚はあるけれど、勝宏と顔をあわせたら自分の中で何かが変わってしまいそうで、怖い。 『ダンジョンをピックアップして、その中から入り口や入るための仕掛けが存在しないエリアがあるやつだけ確認していけばいいんだろ?』 「そうだね。お願いします」  メモ帳とペンを持って、久しぶりにウィルと二人で異世界を歩く。  もちろん、通販の件もあるので注文した品が届いたら一旦戻るつもりだ。  エリアスへの配達も必要だし、勝宏だって商品を待っているだろう。  できれば、勝宏と直接会わないで済むように、彼の寝室に手紙とともに避妊具を置けたらいいのだけれど。  ウィルは頼まれてくれるだろうか。  あちらとこちらでは、時間の流れ方はほとんど同じ。  注文完了のメールを見る限りでは、四日後の午前中には自宅に配達されてくるそうなので、その時は一旦ダンジョン探しを中断して、日本で待機である。 『お、一つ目発見。行くぞ』 「うん」  透が頷いたと同時に、ウィルの転移で視界が切り替わる。  真っ暗だ。  日本から持参してきた懐中電灯をつけて、あたりをチェックしていく。 『入り口や入るための仕掛けが存在しないエリア、かつ、そのエリアに人が居ない……ってのを条件に探してみたんだが、どうだ?』 「うーん……あ、石版があった。これだね。ウィルすごい」 『ま、当然だな』  あとは透自身のリアルラック。  石版を確認して、未登録のようであればダンジョン一件目。  登録済みのようであれば、家主が帰ってくる前に退散だ。  石版に近付いて表面をライトで照らす。 「……何も書かれてないね」 『ハズレか。じゃ、次行こうぜ』 「そうだね」  コア未登録の天然ダンジョンは、そうそう簡単には見つかってくれないのかもしれない。  ああ、でも。  勝宏に対する気まずい気持ちが落ち着くまで、見つからないでいてくれる方がありがたいような気もする。

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