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アニメキャラに恋をするのと過去の人物に恋をするのとではどちらがより幸せか(4)
好きな、やつの。
……それは、本当は誰のために用意された台詞だったの?
ほんのちょっとだけ、勝宏”らしく”ない、なんて考えてしまった。
出会って間もない透には、本当の意味で勝宏”らしさ”を語ることはできないのに。
本来の勝宏のことを、自分はなにひとつ知らない。
だめだな。なにもかも疑ってかかってしまう。
泣いている人にはこうやって甘い言葉で慰める、とでもインプットされてるんじゃないか、とか。
彼の性格に沿って、誰かを想定して作られた台詞が、たまたま透に使われてしまっただけなんじゃないか、とか。
どこまでが本来の勝宏で、どこからが作られた勝宏の言葉なんだろう。
最悪だ。
彼のことさえ信じられなくなっている。
「ごめん」
「え」
「ごめんなさい……」
「そ、えっと、それ、あの、ノーサンキューってこと? あ、あはは、はははは……お、俺こそごめん……変なこと言って……」
わたわたと言い繕って、勝宏が自分のベッドに潜り込んだ。
きっと透が理由なく泣き出してしまったから、扱いに困ってのことだろう。
泣いたら、相手を困らせてしまう。
何年も付き合ってきた己の泣き虫で唯一学べたことだったが、こういう時に役に立たないのでは学んでも意味がない。
「お、俺、手出さないから。一緒の部屋で寝るけど、絶対手出さないからな」
それだけ言い切って、勝宏が黙り込む。
しばらくすると、寝息が聞こえ始めた。
勝宏にまで、こんないい加減な態度をとってしまった。
これではそう遠くないうちに、一番嫌われたくない人たちに愛想をつかされてしまう。
ベッドから降りて、リビングルームへ戻る。
ソファの上で丸まっていたクロがぴくんと首を動かして、透の方を見た。
「起こしちゃったね。ごめんね、寝てていいよ」
ソファの端に腰を下ろす。
眠そうにしているクロの頭を膝に乗せて、そうっと撫でた。
爬虫類の類は低体温だと聞いてるけど、この姿のクロはほんのりあたたかい。
「ぎゃう……?」
「……ねえ、信じるって、どうするんだったっけ」
訊ねても答えを得られることはないと分かっていて、落ちかける瞼に問いかける。
ソファの背に体を預けると、クロの体温で透にもようやく睡魔がやってきた。
翌朝、朝食を食べながら詩絵里が、今後のことなんだけど、と全員に話を切り出した。
「そのうち透くんには拠点向けのダンジョンを見つけてもらうとして、見つかったら登録のために一度私か、勝宏くんか、ルイーザかの三人のうち誰かがコアのある場所へ転移しなきゃならないわ」
この件は、エリアスから話を聞いた際にも浮上していた問題である。
ルイーザがいったん箸を止めた。
「でも透さんの転移は私たちには使えませんよね?」
「ええ。だから私のスキルと頭を使って、転移のマジックアイテムを新しく作るの。そして透くんに、転移先となる地点へマーカーをつけてきてもらう。これが現状、ベストなやり方よ」
詩絵里も、透の予想とおおむね同じ手段を検討していたらしい。
だが、ひとりで実行に移さずこの場で話すということは、やはりこれには何か懸念事項があるのだろう。
「そういや詩絵里、前作ってたよな。あんな感じなら2、3時間で作れるのか?」
「そうだけど、そうもいかないっていうか……あの時は手持ちの材料でどうにか間に合わせられたんだけど、今回は材料が足りないのよ。そこで、今後のことなんだけど……材料集めをしない?」
材料の問題か。
それなら、彼らが材料を集めている間に、透はダンジョンそのものを見つけてくる……というのが最効率だ。
「ふんふん。私は構いませんよ? ひょっとしたらウチのルートで取り寄せができるものもあるかもしれませんし」
「それもちょっと期待してるわ。でね、透くん」
「あ、はい……俺はその間、別行動でダンジョン探していればいいですか」
「違うわ。一緒に来てちょうだい」
急に話を振られて、思わず考えていたことを口にしてしまった。
が、同行するのは効率的とは思えない。
どういうことだろう。
「実はね、ウィルの話でこの尖塔に、何らかの異常が見られることが分かったのよ。
ルイーザや透くんはともかく、Sスキル持ちの私や勝宏くんはそろそろこの場を離れた方がいいわ」
「そう……ですか」
「でも、ダンジョン探しててほしいっていうのも透くんの予想通りね。
透くんには転移があるから、私たちと一緒に移動しつつ、日中は先々の宿屋から転移でダンジョン探しを続けてほしいの」
なるほど。
つまり、宿屋など仮の拠点を同じくしつつ、日中の行動は別に……ということらしい。
「わかりました。一緒に行きます」
「またずーっと離れ離れじゃ、勝宏くんも可哀想だしね」
「え?」
詩絵里の付け足した言葉がぼそりと聞こえる。
可哀想、とは具体的に何を指してのことだろうか。
訊き返しても、彼女はにっこり笑って首を振るだけである。
「いいえ、こっちの話。じゃあまずは……そうね、食事が終わったら必要な材料を書き出すから、ルイーザ、取り寄せできそうなものに丸をつけてくれるかしら?」
「了解です!」
頷いたルイーザが、再び食事に手をつけだす。
今日の朝食は久しぶりに和食だ。
はあ、これですよこれ! と満足そうに表情をとろけさせているルイーザはやっぱり、心から喜んでくれているように、見える。
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