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人生初の友達ができたので一緒に世界救ってきます(1)

「俺が止めるとしたら、そいつの秘奥義は代償で自分も死ぬとか、そういうやつだよ。そんなの隠されてたら俺は、そっちのほうがずっと怖い」  心配をかけたくないから、黙っていたい。  本当に力が必要な時に、身を案じるというだけでそれを扱うことを拒否されるわけにはいかない。  だって守りたい人は、他人のために簡単に命を投げ出すような人なのだ。 「止める間もなく、目の前で、俺を助けるために透が死ぬのは嫌だ」 「……同じこと、俺の目の前でやったくせに」 「それもそうだよな。でも俺は謝らないし何回でもやる。俺にとっては、透の方が大事だから」  自分勝手なひとだと思う。本当に。  そして透も、彼のすることを止められないのだから厄介だ。 「いくらなんでもフェアじゃないから、俺も透に「やるな」とは言わないよ。でもせめて、あらかじめ教えていてほしい。そしたら、秘奥義使って透が倒れた時、俺が絶対抱きとめてみせる」  なんだかすごい技を透が使いこなせるみたいな話になっていて、思わず笑ってしまった。  勝宏もまた、笑顔を見せる。 「だから、ありがとう。抱えた秘密のひとつふたつだけでも、話す気になってくれて」  もう後悔はしたくないから。  それだけ言って、勝宏の腕が離れた。  詩絵里たちの話を遮って、二人を中央のテーブルで座るよう促している。  透の話す場を作ってくれているのだろう。 「透くん、話って……ノートパソコンあった方がよさそうな話かしら?」 「あ……はい。たぶんあったほうがいいと思います。えっと、お茶、いれてきますね」  四人分のお茶とお菓子。  話の内容は食べ物なんて喉を通らないような衝撃だろうけれど、今後のことを決めるなら詩絵里に指揮を任せて全員の意見を聞いた方がいいに決まっている。  小屋の片隅でもまた眠りこけているクロには、お茶はいいかな。 「さて、透くんからお知らせがあるみたいだから、出立の前に話を聞きましょうか」  お茶を用意して、お菓子もテーブルの中央に置く。  出された紅茶を一口飲んで、詩絵里が透に話しかけた。 「透くんはカノンとの接触を除いて、ここしばらく新たな情報を得られる状況じゃなかったわ。たぶんだけど、もっと前に何かを知って、それを私たちに言うか迷ってた。……悪い知らせの方ね? それも、今すぐ解決できる問題ではない」 「はい。……その、皆さんの……”転生”と、この世界についての話です」  彼女の推測を肯定して、ダンジョン探しの際に見つけた石板のことを話した。  透には扱えないはずのステータス画面のようなものが出てきて、というところまで言ったあたりで、詩絵里がぼそりと呟く。 「ひょっとして、この世界は仮想現実だったみたいな話かしら」 「仮想現実? VRってことか?」 「あのゴツいゴーグルつけてセンサーで動かすやつですよね? ご飯の味とかする時点でそれは違う気がするんですけど……」  詩絵里の呟きを二人が拾う。  勝宏とルイーザは納得できていないようだが、仮想現実説は非常に近い。 「……詩絵里さんの予想は、たぶんその通りです。死んだ人間の意識だけを、ゲームの世界にユニットデータとして移植した……それがこの”転生”の実態だそうです」  取り乱すでもなく、詩絵里は「そう」と受け入れた。 「……当初私は転生したのではなく、死にかけた時に脳みそだけ切り取られて電極ぶっ刺され、どこかの電脳世界に意識を飛ばしている……と考えていたわ。 でもそこに、転生者ではなく、日本製品を持ち込むことができ、この世界の金品を日本で売って資金にすることのできる透くんが現れた」  やはり、パーティーのブレーンである詩絵里は最初からこの世界のありかたを疑っていたらしい。 「透くんが黒幕でない限りは、透くんは電脳世界説にはそぐわない存在よ。それで私は、この世界を現実の世界……異世界だと認識したのだけれど、やっぱり違うのね?」 「それは俺が話してやる」  透が答える前に、ウィルが人間態になって姿を現した。 「俺たちと同種族に、光の――アリアルってやつがいてな。そいつの力のひとつに、空想上の物語を新たな世界として生み出す能力がある」  この話をするということは、勝宏のことについても触れる必要がある。  いずれにせよ詩絵里には遅かれ早かれ追究されるだろうが、それによってこのパーティーがどうなるか、を考えると、少し気が重い。 「だがそれは俺たちの間では、”箱庭”、”アリアルの巣”と呼ばれている。酷いと”畜産場”なんて言う奴もいるが」 「あっ読めたわ。つまりこの世界はアリアルによって作られていて、ここに生きている人間は皆、アリアルの家畜として飼育されているのね?」  透が考えていなかったところまで進み始めた。  詩絵里に情報を与えたとたん、話が透の知っていた情報以上に発展していく。 「そんなもんだ。厳密には餌”候補”だがな。 俺たちと同じ種族の力を借りなければ、この世界から出ていくことはできない。 おそらくこの世界で科学が発展して、ロケットや宇宙開発なんかが台頭してきても他の惑星には行けねえだろうよ」 「でも、たとえば今ウィルと私が契約したとして、私を日本に連れていくことはできないんでしょ?」 「ああ。おまえたちはアリアルの力に依存する形でこの世界に存在している。俺が契約して運べるのは、現実の世界に実在する人間だけだ」  そこまで聞いて、詩絵里がノートパソコンのスリープモードを解除した。  既に開かれていた表計算ソフトの、七つの大罪系スキルについての情報をさらう。 「ちょっと待って。餌”候補”? Sスキルは何かの候補に目印をつけるためのものっていう憶測だったけど、まさか」 「さあな、そうなんじゃねえの? アリアルが独断でやってる家畜の飼育方法なんざ、俺は知らん」  話を聞く側に回ってしまっていた透だったが、そこで直感的に違う気がした。 「あ、あの」 「ごめんなさいね、つい気になっちゃって。話の続き?」 「いえ……えっと、Sスキルのマーキングのことなんですけど、餌の品質とか順番とか、そういうのではない、と思います」  Sスキルによるマーキングは、餌として高品質な個体になる可能性のある人間にしるしをつけたもの。  話の流れからして、詩絵里たちはそう思ったはずだ。  だが、そうなるとアリアルのあの言葉が少し妙である。 「俺、アリアルと、話したことがあるんです」 「え? いつ?」 「……アリアルは――勝宏の中にいます」  とっさに、ルイーザが席を立って勝宏から距離をとろうとした。  詩絵里はその場を動かないが、数歩距離をとったところで意味などない、くらいに思っているだけかもしれない。

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