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人生初の友達ができたので一緒に世界救ってきます(2)
「あの、そうじゃなくて……勝宏が寝てる時だけたまに出てきて、勝宏の体で……俺に、えっと、話しかけてくるんです」
「それ勝宏さんが寝ぼけてるだけじゃなくてですか?」
さしあたって今すぐの危険がないと知って、ルイーザが席に戻る。
透がアリアルと会ったのは、勝宏の意識がない時。
勝宏が寝ている間に透が不埒なことをしてしまったという事実は知られていたから、彼の意識がない時の情報はアリアルにも読み取ることができるのだろう。
「……勝宏のこと、俺を巣に呼ぶための餌にする、みたいに言っていたので」
「なるほどね。少なくとも勝宏くんがアリアルの巣のことを知っていないと、否定のしようがないわね」
「俺、アリアルって名前自体初めて聞いたぞ」
「アリアルは、俺を食べるために勝宏を取り込む、と言っていました」
ただ転生者を食い物にするために育てているというよりは、適性の高さから選別したような口調だった。
やはり当初考察していた通り、Sスキルに関しては何らかの目的に沿って割り振られ、その目的のためにウィルたちのレプリカを作っている、とするのが自然な気がする。
「透の説明じゃ言葉が足りねえな。アリアル本体がそいつの中にいるわけじゃねえよ」
「あら、そうなの?」
「見た感じじゃ、力の一端がそいつの中にあるってだけだ。……今はざっと四分の三くらいか? もとは四分の一程度だったはずだ。俺が気付けないわけだぜ」
「四分の一から四分の三……ひょっとしてSスキルのことかしら」
詩絵里がふと考えるようなしぐさを見せる。
それからすぐに勝宏にステータス画面の開示を促して、ウィルの前に勝宏のステータス画面が提示された。
スキル
<英雄>
――模倣はやがて理想になる
【!】アリアルの種子スキルです。スキルの進化先が3通り用意されています。
↓
①<?クサ?ココ??ャ>
――?????ケ??ヲ??ッ?????ソ??ョ?オ??????ク
*進化条件が揃っていません。
達成済:熟練度
未達成:<??イ??「>の討伐
②<強欲>
――?????ケ??ヲ??ョ?。????????????ョ?????ョ?クュ??ォ
*進化条件が揃っていません。
達成済:熟練度
未達成:種子(1/2)
③<傲慢>
――好奇心とは追放の契機である
*進化条件が揃っていません。
達成済:種子(2/2)
未達成:熟練度
「たぶんなんだけど、同じ属性のSスキルを持つ転生者を倒すと、半分に割れてる種子が集まってくるみたいなのよね。
<強欲>の種子と<傲慢>の種子をどちらもアリアルの属性だとするなら、アリアル系統の種子スキルに関しては二分の一どころか四分の一スタートの転生だわ」
あれから勝宏は小屋作りしかしていない。
文字化けもスキル量も変化がないことに、横目で見て安堵する。
「確か、Sスキルが七つの大罪系のスキルに進化すると、ウィルたちの劣化版みたいな存在になるのよね?」
「ああ。詩絵里、おまえはカルブンクで間違いねえだろ。そこのアホはアリアル……だろうが、そいつに限ってはレプリカと言い切るには違和感がある」
「そこよ。それが気になってたの。ウィルは転移系だから、転生者でいうとあのお医者さん――リファスがあなたのレプリカってことになるわ。
透くんと契約を交わしていなかったなら、リファスのことを転移で運んだり、念話で意思疎通したり、危険にかけつけたりってできたの?」
Sスキル――対応する種子を持っているだけで、本家本元の悪魔たちもその転生者を出入りに利用できるのか?
詩絵里の疑問はもっともだ。
ルイーザが先ほど勝宏を警戒したように、この場にいきなり黒幕が出現したらたまったものではない。
「できるわけねえだろ。少なくとも、地水火風の四属性には無理だ。契約する気なら話は別だがな」
「闇の方は今はいいとして、問題の光属性さんは?」
「本来なら、できねえよ。だがここはアリアルに都合のいいように作られた世界だ」
「……そうなっちゃうわよねえ」
結局、勝宏の意識がない間にアリアルがやってくる可能性がある、という点は防ぎようがないようだ。
「やつの本体は今、別の場所にある。それは間違いねえ。だが力の一端を植えつけられている人間のもとへは、すぐに駆け付けられる……と考えておいた方がいいだろうな」
「アリアルに限っては、透くんとウィルの関係と一緒なのね」
「……まあな」
セイレンは、イベントを作成するスキルを持っていた少年とアリアルは契約関係にないと言っていた。
だが、透と同じような念話はできていたように思う。
確かに透とウィルの関係に近いのかもしれないが、転生者たちとアリアルの関係はそれとイコールというわけでもなさそうだ。
「それじゃあ、アリアルが盗聴してるかどうかはウィルが感知できるから、作戦会議に関しては今まで通りで問題ないってことでいいかしら」
「ああ、そこは俺が保証してやる」
よかった。それがなければ、今後勝宏はパーティーに居づらくなってしまうだろう。
そして自分は間違いなく、勝宏ひとりか詩絵里たちかを二択にされたら勝宏の方につく。
詩絵里たちへの支援は絶たないだろうが、今まで全員の能力と知恵があってなんとか安全に旅を進めてこれたのだ。
これが分裂して今までのように危機回避できるとは思えない。
それにしても。
「あ、あの……大丈夫、なんですか」
どうして三人とも平気でいられるんだろう。
思わず言葉に出てしまった。
この世界がまがいものであること、自分たちが転生したわけではないことに関しては、あまり驚かれていないように思う。
「大丈夫って、何が?」
「その……ゲームだったってこと……」
透はこの件で何日も落ち込んでいたというのに、さらっと流されてSスキルや悪魔の話になってしまっている。
自分の心が弱いせいなんだろうか。
「えっと、あれだろ? 透の話をまとめると、俺たちは死んだ時に、魂的なものをコピーされてゲームの中に入れられてるってことだよな?」
「ああ。で、他のやつらはどうだか知らないが、俺らの劣化版――Sスキル持ちのおまえらに関しては、まずほぼ間違いなくアリアルの食生活向上のために連れてこられてんな」
よもや理解できていないのでは、と不安になったが、勝宏も存外正確に状況を把握している。
彼の言葉に、ウィルが補足した。
同種族からの話は信憑性が高い。
「大変そうですねー。それ聞いてるとなんか、その他大勢側の私もろくな結末にならない気がします」
「まったく。最初から分かってたことだけど、ほんっとこれクソゲーよね」
詩絵里が大きくため息を吐いた。それからふっと笑う。
「驚いてないわけじゃないのよ、透くん。
でもチートスキルを持って異世界転生なんて、正直荒唐無稽すぎてね。死ぬ時に見ている夢のようなものっていう方がよっぽど受け入れやすいの」
詩絵里のそれは諦観でもなんでもない、透には理解の難しい感情だった。
ルイーザや、勝宏もそう思っているんだろうか。
「ところで私から提案があるのだけれど」
「なんだ?」
「ぶち壊しちゃわない? このゲーム」
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