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第37話 衝撃な話

 コートに袖を通しているときに玄関から物音が聞こえた。そのまま覗きに行くとそこには睦月の姿があった。 「睦月!」 「……晴、どこかに行くのか?」  眉間に皺を寄せて普段なら見せない表情を睦月はしていた。 「睦月のところに行こうと思っていたんだ」  急いで近寄ると濃厚なアルコールの匂いがして、疲労の濃い顔をしていた。そんな睦月を見るのは初めてだった。 「ずいぶん飲んで来たんだね」  晴は頬に手を伸ばして、労るように優しく触れた。   「晴は何故俺のところに?」 「うん、僕が会いたかったんだ」 「……違うだろ、手縞さんから連絡が来たんじゃ無いか?」  頬に触れる晴の手に自らの手を重ねた睦月は瞳を閉じた。晴は睦月の言葉には返事をしないで、冬の冷たい夜の空気を纏うその身体に抱きついた。 「違う、僕が会いたくて堪らなかったんだ」 「……そういうことにしてやるよ」  晴の耳元に少し柔らかくなった睦月の声が聞こえた。背中に回された腕にも温もりが戻って来はじめていた。晴はその声音にやっと少し安堵した。それほど今日の睦月はいつもと違い堅い雰囲気と濃い疲労を従えていた。 「ソファーに座ってよ、コーヒー入れようか?」 「いや、このまま聞いて欲しいことがある」 「え?」 「月嶋雫くんが暴漢にレイプされた。俺のミスだ」  レイプの言葉に晴の身体は硬直した。  慌てて顔を上げた晴は睦月の顔を見上げた。そこには悲痛な顔をした睦月がいた。その顔に嘘は感じられない。もとより、深酒に濃い疲労のどこをとっても偽りはないと確信出来た。 「今、雫くんは?和樹くんは知ってるの?」 「月嶋くんは母親に付き添われて病院にいる。和樹には知らせた。今頃これからすべきことを考えているはずだ」 「もしかして原因は和樹くんのお父さん?」 「そうだ、あの人が実力行使に出た。警戒して月嶋くんには人を付けていたけど間に合わなかった。現場に駆けつけたときには彼は後ろから入れられていた。あいつは速攻で殴り倒して月嶋くんを病院に連れて行ったけど、心のダメージまでは分からない」    蒼白になった晴はよろけてベッドに腰を下ろした。 「いくらなんでもそこまでする人がいるなんて……」 「すまない」 「なんで、睦月が謝るのさ。何も悪くないじゃん」 「でも、守ることが出来なかった」 「それも、睦月は最善を尽くしただろ?どこにも睦月を責めるところがないよ」 「晴……」 「それとも誰か睦月のせいだって言う人がいるの?そんなヤツいたら僕が一発殴ってやるよ。ほら、どこにいるの?」     勢いよく立ち上がると晴はファイティングポーズをとった。     「っぷ!あまり強くなさそうだな~」  一気に睦月の堅かった雰囲気が緩んだ。  その様子を感じた晴の心はほんの少し安堵したが、それでもいつもの睦月にはほど遠かった。 「睦月、自分を責めないで、お願い」 「……晴、お前が慰めてくれるか?」 「うん、僕が慰めてあげる」    晴は両手を広げて睦月を包み込んだ。

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