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だからさぁ、オレ失恋したばっかなんだよね。
浮気されて、問い詰めたらフラれて。23から2年付き合ったのに。結婚も視野に入れてたよ、オレは。
会社でも心配される位、一ヶ月ヘコみにヘコんで。リアルもう恋なんてしない状態だったんだよ。
そんな時にね、親友のお前から『最近どお?今度飲み行く?』って連絡貰って、なんかすごく嬉しくなっちゃったんだよね。
それでさあ、お前も知ってるでしょ。オレが飲んでも酔わない体質って。今も思考はクリアだし、気分は良好なんだよね。
なんでオレは布団の中で丸まってスピスピ寝てるお前を、抱きしめたくなってんだろうね?
夜中に目が覚めてトイレから戻ってきて、かれこれ30分はこうして悩んでるんだよ。
寒いから。人肌恋しいから。……理由はまあ、無くないね。
同性に適用していいか判断に迷うけど。
もう面倒臭くなっちゃったから、お前の布団入るね。
背中から抱きしめたら「むぁ……?」ってなんだよ、かわいいな。
身体ちっさいなー。元カノより華奢だよ。
それに何このフィット感。すっぽり腕の中に収まっちゃって。愛されるための生き物かよ。
親友だけど起きてる時にはかわいいなんて、思ったこともなかったんだけどな。中学生くらいの頃ならともかく。
「ちょっと…………秋彦 さん……?オレ今年一番のまさかの展開に、すげえビックリしてんだけど……?」
あー。春真 が起きちゃった。
もうちょっと堪能してたかったのに。そんで今年って、まだ1月だよ。
「んー。オレもだよ」
「なにやってんの」
「春真が、オレに、抱きしめられてるんだよ」
「……お前フラレて宗旨替えしたの?」
「違うよ」
「だったら離せよ。キモいから」
「いやだ。オレはキモくない。ハートブレイク中なんだから許してよ、このくらい。淋しいからって女の子に手当たり次第、抱きつくよりはマシじゃない?」
髪の毛と首筋からいい匂いがする。
モゾモゾ動くから、ギュウって押さえ付けたくなるんだけど。
してもいいかな。
「──っ、おい!だからってオレにサカんなっ!」
「えー。これはそんなんじゃないよ」
……ないのかな。ウン、ないだろ。でもこうモゾモゾされるとなあー。
「春真ー。あんまり暴れない方が良いよ」
「はあ?」
「ほら、男の狩猟本能が発動しちゃうから」
「はあー?──は、な、せっ!」
「ダメだって言ってるのに」
そんな事されたら力づくで抱きしめちゃうよ。
ジタバタしたって無駄でしょ?こんな体勢じゃ大した力は出ないもんね。
女の子にはこんな乱暴できないもんな。反応も新鮮でなんかゾクゾクしてきた。
「痛…っ。お前、なんかハァハァしてて怖い」
「お前が手の中でもがく小動物みたいで、気持ち良くなってきちゃったんだよ」
「余計怖くなるから理由言うな」
まだ逃げようとしてる。
ちょっと心ゆくまで抱きしめさせてくれたら、満足するのにさあ。
「大人しくしてよ」
せっかく抱き心地いいのに。
「オレ嫌がってるだろ?本当おまえ自分勝手な奴だな」
「なに地雷踏み抜きに来てんの」
さっき愚痴っただろ。フラれた理由がそれだって。
「あんたみたいな自分勝手なやつが本命だと思ったの?」とか信じられないこと言われたって。
「あ──ゴメン」
皮肉って訳じゃないんだね。
まあ春真はそんなイヤミ言わないか。
「別に怒ってないよ」
大体自分勝手なんて言われ慣れてるし。
元カノにだって散々言われてたよ。だったら早く別れてくれれば良いのに、キープしとくんだもんなー。
「だからちょっと、ぬくもり分けてよ」
「何が、だからなんだよ……」
でも力は抜いてくれるんだ。優しいね。
「あー。春真いい匂い」
「お前も同じ匂いだよ。オレんちのシャンプーと石鹸なんだから」
「自分じゃ分かんないから、これは春真の匂いだよ」
「……首元で嗅ぐな──いい加減本気で怒るぞ」
「──初めて、あんなに長く続いたのになあ……」
「元カノ?……続いたも何も、おまえ騙されてたんじゃん……忘れて次いけば」
「いらないかなーもう。コレでいいや」
「コレって……オレかよ!?」
「そう。春真の抱きまくら。愛だの恋だの神経すり減らさなくてもさ、ちょっと人の体温感じれば、けっこう癒やされるもんだね」
「……オレは迷惑だ……」
またモゾモゾして……あ、こっち向くのか。
暗いからかな、春真の目っていつもこんなに潤んでたっけな。
「ほらしっかり現実受け止めて。お前が抱きかかえてんのは同い年の野郎だよ。血迷ってんな」
ああ、それで身体押し付けてきてるの?
胸真っ平らだし腹も硬いね。オレと同じ。でもちゃんと弾力あって、触り心地いいじゃん。
「──っ、おい。誰が触れって言ったよ……!」
「現実見てるんだよ」
──ヤバイ、嫌悪感全然ないや。
それどころかさ、嫌がるお前の顔がさ……なんだろうこの気分。もっとよく見せてよ。
「離せ……!」
顎掴んだだけでそんな顔する?
じっくり見たって女の子には見えないのに──かわいい……?
「春真──」
「秋っ────んん……」
なんだ、唇の柔らかさに男も女も関係ないね。
……マズイちょっとこれ止まんないかも。
逃げないでよ。追いかけたくなるでしょ。
あ……舌が絡んだら絡めてくるの……ズルいって……あーヤバイ気持ち良い──。
唇離したら唾液の糸引いてるって、どんだけ本気で盛り上がったんだろうねオレたち。
そりゃお前も茫然自失だよね──まあオレもそんな気分。
──なんでオレはお前にキスなんてしちゃったんだろうね…………?
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