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 春真の家を出たらもう外真っ暗。まだ夕方の5時なのに。こっから駅まで10分。そのあと家まで電車で30分くらい。割と近いんだよね。  今って駅前のクリスマスデコすごいんだよ。土曜だし人多いかなー。全然にぎやかな気分じゃないんだけど。  別にね──  早く帰りたくて帰るわけじゃないよ。  けどオレも考えたい事あって……。  今日、フツーに恋人みたいなセックスしちゃったでしょ。仲直りえっちの威力、半端ないよね。玄関先のやりとりもバカップルぽかったし。なんか──実感しちゃったんだよ。  ……もうふざけてられないくらい、  お前に本気になってる。  網代に感じたのは嫉妬なんだけどさ。  中高の時にも同じこと言ったんだよね?オレ。もうそれ好きだったんじゃん。自分で分かってなかっただけだよ。学生の時なんて今以上に虫レベルの知性だったから有り得るんだよね。  ねえどうしよう春真。  もうさ、オレが告白したって良いよ。  けどそれで付き合ってみて──  今までみたいにお前ともダメだったら?  ──好きな相手と親友を  一度に失うことになるよね──  おまえが居なくなるとか考えられない。  そしたらオレどうすればいいの。絶対無理だし。オレが泣きつく前に、早くオレじゃなきゃダメって言って。オレはこんなにお前が必要なんだから──。  ……とか考えてるの知ったらお前でも幻滅するかな。すんごく格好悪いもん今のオレ。  あー気分落ちすぎて地面にめり込みそう。  チッ、駅前やっぱりカップルだらけじゃん。  イルミネーション素敵ですねー。来年も二人で見れると良いですねー……それまで続けばね。ゲヒゲヒゲヒ。  !?……うわああああ。  やだよー。なんだよオレ。器ちっさ!! 「そこで激しく首振ってるの観月さん?  ……やっぱり、観月さんだ」  ──このムカつくほどダンディな声、網代!? 「無視なんてつれないなあ」  えーなんでスルーしてくれないの。 「こんばんわ。昨夜ぶりですね。  では、さようなら──」 「ちょっとちょっと」  腕掴まれた。走って逃げても良い? 「ひどい顔してるよ。春真くんとケンカした?僕のせいかな」  うっわ白々しい。 「しませんよ。なんですか。なんでこんなトコ居るんスか。暇なんですか店長さんって」 「忙しいよー師走だからね、年内休み返上なんだ。今日だって休日出勤だよ。早めに終わらせて帰るところ」  そこまで聞いてないよね。知りたくないし。  放して欲しいの分かってるくせに空気読まないふりまでして。なにがしたいのこの人は。 「で?春真なら居ませんけど。  あ、居たって会わせませんけど」 「ここで君と僕が会ったのも  何かの縁だから──」 「お断りします」 「──ふふ、察しが良いね。だったら僕が食い下がることも分かるよね?」  まあね。  サシで話をつけるチャンスではあるよね。ものすごく気が乗らないけど、オレにとってもそう悪い話でもないかもな。キッチリ釘刺して二度と関わらないでいただこうか。  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇  また奢りだとかチョロいこと言うから、  牛肉とトマトのポアレとめっちゃお高い  ワインを頼んでやった。  あれ?大してお高くないの?  こんな店来ないから知らないよね。  オレは居酒屋にしようって言ったよ。  フレンチレストラン連れてきたのはあんただから。 「単刀直入に言いますけど、お(たわむ)れで春真に手を出すのやめてくれますか。暇つぶしの相手は他にいるでしょ」 「君は本気、だってこと?」 「そうですね」 「──ふうん」  また人を小馬鹿にした顔で笑ってる。  どうせ口論しても勝てないからストレート投げたけど……後悔してきた。 「春真くんの様に可愛い子もいいけどね、  綺麗な子も大好きだよ。観月くんみたいな」  え、なにそれ。  脅し?人身御供(ひとみごくう)になれってこと?  やだこわいふざけんな。 「言い直します。  春真とオレに手を出さないで」 「そんなに嫌わなくてもいいのに。君達を見てると楽しいんだよ。トムとジェリーみたいで」  おじさんのセンスは分からないよね。  オレが賢いねずみの方? 「とにかく。迷惑だから」 「僕が居ても居なくても、  君たち上手く行ってないでしょう」  あ。知ったふうな口きかれた。  ぐぎぎ、ってなるけどその通りだよ。 「ちょっと僕と遊んでくれたら  手助けしてあげてもいいんだよ」  いや変態紳士の取り引きじゃなくて。  こういう時に発揮しなよ大人の包容力。 「そんなことしたら拗れるだけって分かるでしょ。悪趣味だよあんた」 「ふふっ、褒められた」  ……虫見る目つきしちゃったけど仕方ないよね。 「オレもさ──春真に着拒しろとか本屋行くなとか言いたくないの。ねえ網代さん、言わせないでよ」 「仕方がないなあ、君にそんな顔されたら断れないじゃないか。いいよ。春真くんを口説くのはやめる」  え、もう防衛成功?  もっとネチネチ言わなきゃダメじゃないの。  安易に信じていいのコレ。  なんか裏があるんじゃない? 「観月くんは本当にザルだね。君を酔い潰すのは諦めるよ」  ワインを水みたいにカパカパ飲んでるから?  これくらいの迷惑料は貰っていいよね。  お会計で青ざめるがいい。  けどもう甘くないジュースは飲み過ぎ。お腹タプタプだよ。早くお(いとま)したいなあ。言いたいことは言ったわけだし。 「──そろそろ出ようか秋彦くん」  やっぱ無駄なこと嫌いなんだよな。そういう奴で助かったよ。さりげなく名前呼んだのはこの際スルーしてやる。  店の前で別れたかったけど向かうのが同じ駅だから、撒くに撒けないっていうか。もうそれくらいは仕方ないというか。  でも「こっちが近道だよ」ってそれ本当?  人通りどんどん少なくなってない?  ──いやこれ、やられたわ。  緑が多くて有名な駅の裏手の公園だけど  昼にしか通ったことないんだよね。  ここ死角だらけでめっちゃ暗いじゃん。 「ちょっと網代さん」 「どうしたの?」 「あんたオレに(やま)しい事しようとしてない?」 「してるよ?秋彦くんの要望には応えてあげるのに、ノーリターンというのは不公平な話じゃないか」  いつの間にこんなに距離縮めてた?  右腕に網代の手が触れている。振り払うのは簡単だけど我慢しないと春真が食われる──こんなの脅迫と一緒じゃねーか。 「節操ないな。相手は誰でもいいわけ?」  網代が鼻で笑った。  あ、これ──まずいかも。  思った時には顎を掴まれていた。 「ふ……っん、っは」  くっそ、ねっちりしたやらしいキスしやがって。どこまでも印象を裏切んないな、こいつ。 「僕だって誰にでもこんなことはしないんだよ。君の、扇情的でセクシーな魅力に惹かれたんだ。どこまで献身できる?──春真くんのために」 「しろってなら、なんでもしてやるよ卑怯者」 「じゃあ連絡先を教えてもらえる?」 「脅せばズルズル関係を持つとか思ってんの?ふざけんなよ、ヤんなら今から一回限り。それでお釣りがくるだろ」 「……困ったね。格好良くて()()れするよ。本気で落としたくなっちゃうな」  ならまずキスすんの止めろよ。  ……舌が口の中這い回って……  ウザいんだよ……。 「──こんな──とこで──  いい加減、やめろ」 「そうだね、やめておくよ。今日は」  声が近付き耳たぶにチクッと痛みが走る。  こいつ……咬みつきやがった。 「連絡先は教えてくれた方がいいんじゃないかな。じゃないと僕は春真くん経由で君に接触するしかないからね」 「──ほんっっっと、卑怯な奴だねあんた」 「連絡先の交換ありがとう。じゃあまた今度。その時は楽しい時間を過ごそうね」  睨んでいるにも関わらず、網代に嬉々として目を細められツルリと頬を一撫でされた。そのまま踵を返して去っていく。キザったらしいけど引き際を知ってる。  でもさあ、あんたのスカした後ろ姿に  ものっすごい負のオーラ送られてっからね。  明日の朝、もげてなきゃいいけどね。  あーくそ。面倒くさい事になったなー。  ゴリ押し凄すぎ。昨夜の春真の気持ち分かっちゃったかも。しかも外でナニしてくる奴だよあいつ。やっぱ絶対会わせられない。  まあ、逃げ切れるとは思ってるよ。  春真じゃなくてオレだったら。  最悪ヤられたって春真があいつと寝るより  よっぽどマシだよ──。

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