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第1話 狐の災難1

俺達は生まれた時から、狐と人間、両方の姿を持っている。 主に狐として生きていたが、次第に森林が失われ、狐が住む環境が破壊されてしまった。 そこで開かれた日本狐会議で、全面的に人間へシフト替えすることが決まったのである。 以後10年間、俺は人間として生きてきた。人間の姿で中学校、高校へと通い、大学まで進学した。ひとたび人間に慣れてしまうと、狐だったことを忘れてしまうくらいしっくりくる。 両親は仲間と経営する食堂で働き、俺と妹を育てた。狐達は群れることを覚え、寄り添って生活している。住んでいるアパート全体が狐世帯であり、人間が入る隙がないくらい俺の周りは狐だらけだ。同志は匂いで分かるものの見た目では全く区別がつかない。 そして今も世界の片隅でひっそりと『元キツネ』は生息している。 「おはよ、真那斗(まなと)」 「おう、桃矢。おはよう」 朝の出勤時にアパートのエントランスで、幼なじみの桃矢に会った。彼は、前に述べた食堂で働いている。元狐が展開する『きつね食堂』は、いまや市内に5店舗ある立派なチェーン店だ。 「疲れた顔してるけど、大丈夫か?」 「ちょっと仕事が忙しくて」 「無理すんなよ。そうそう、日曜日は夏目さんの誕生パーティーがあるから、空けておいてよ」 「あ、了解」 「じゃあな。仕事頑張れよ」 「行ってきます」 食堂の仕込みをする桃矢と別れ、早足で駅を目指した。 狐は、人間と共に行動することを極力避ける。それは、正体がバレないようにするためだが、かなり難易度が高い。結果、上手く化けることができなくて、学校へ通えない子も出てくる。 基本的に、狐はきつね食堂以外で働かない。人間企業で働くなど以ての外である。 俺は、現金収入を得るため、何より人間について知りたかったから、周囲の反対を押し切って会社勤めを選んだ。 去年入った会社も、この春で1年になる。コピー機や事務用品を売る仕事は、大変だけれど、やりがいもある。 何より仕事はとても楽しい。 長い間、狐だとバレたことがなかった。 そもそもそれが傲りだったことに、後で気づくことになる。

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