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第2話 狐の災難2
俺の働いている会社は、都会のど真ん中にあった。大きなビルのワンフロアを締めており、ドラマに出てくるようなオフィスを構えている。
首から社員証をぶら下げた先輩達が、忙しなく仕事をしている。
俺はここで働く自分を誇りに思っていた。きつね食堂とは違う達成感がある。憧れが詰まった社会人生活は希望に満ち溢れていた。
「狛崎 。今日の納品立ち会いは俺も同席する。配送の確認をしておいてくれ」
「はい。分かりました」
俺のデスク隣は、5歳年上の木ノ下先輩である。木ノ下先輩は仕事ができる。営業成績もトップで、上司の受けも良く見た目も男前だ。
俺はキーボードを叩き、配送の確認をした。確かに今日の午後、取引先へコピー複合機の納品が予定されていた。
「木ノ下さん、確認しました。三河商事さん、午後3時に配送入ってます」
「じゃあ、今から外出するか。数件行きたいところがある。三河商事の納品時間には間に合うだろう」
「はいっ」
「狛崎はいつも返事がいいな」
「ありがとうございますっ」
鞄の中に読み込んだ分厚いマニュアルを入れる。木ノ下さんと連れ立って外回りに出かけることが、嬉しくてしょうがない。
スーツを着て人間と同じように働いていると、狐だったことを忘れてしまいそうだった。
何件かお客さんを訪問した後、三河商事さんへ向かう。
三河商事さんは、俺が初めて担当した契約先で、木ノ下さんの助けを借りながら、今日の納品まで漕ぎ着けた会社だ。しかも、最新の大きな機械を複数台入れてくれた大口顧客でもある。
内緒の話だが、三河商事さんの総務部長は狐だ。総務部長さんはきつね食堂の常連で、狐繋がりが今回の機械の導入に繋がった。
縁が結んでくれた有難い狐の輪である。
三河商事さんで、複合機のセットアップをする。使い方のレクチャーも難なくこなせた。実際に使う女の子達の質問にも、戸惑う事無く答えることができた。
「狛崎君、今回はありがとう。君も立派になったね。さぞかしお父さんも喜ぶだろう」
総務部長さんは、俺の肩を叩いて笑っている。
「いえ。こちらこそ、ありがとうございます。何かありましたら、いつでも連絡ください。すぐに駆け付けますので」
「うんうん。また食堂へ行くよ。積もる話でもしよう」
「今週の日曜日に夏目さんの誕生会がありますんで良かったら来てくださいよ」
「夏目さんか。あの人は相変わらず元気だね。いくつになった?」
「200歳です」
「にひゃく、さい……!!?」
隣で木ノ下さんが目を丸くしているのにも気付かず、俺は普通に話を続けようとした。
「おっと。先輩が驚いてるよ。『200歳』は生きすぎだろうって」
総務部長さんに指摘されて我に返る。
人間は100歳しか生きれない。200歳以上生きるのは人間に化ける狐だけだ。
バレるようなことを言わない、悟られない、気付かれてはいけないのである。いくら話を振られたからって上手に躱さなければならない。
禁忌を犯してしまったことに、酷く凹む。
仲間に知れたら、大目玉ものだ。
「あ、えーと……102歳の間違いです……すみません……です……」
勢いが落ちた俺に代わって、今度は木ノ下さんが総務部長さんと話を始め、その場は収まった。
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