3 / 21

第3話 狐の災難3

帰り道、酷く落ち込んだ俺を木ノ下さんが慰めてくれた。 木ノ下さんは俺がお客さん相手に間違えたことをフォローしている。それに対して、俺は正体がバレることを気にしている。論点がズレているのだが、この時の俺は全く気付いていない。 「200歳は誰が聞いても間違いだって気付くだろう。気にすんな」 「はぁ……そうですよね……」 「それよりも趣味の話をすれば盛り上がったんじゃないか」 「趣味……?」 「ほら、お前が入社した時、趣味が穴掘りだって言ってたやつ。あれは面白い。穴掘りが好きな若者は貴重だぞ」 「そ、そ、それは絶対にダメなやつです!!」 思わず大きな声を出してしまう。 「……狛崎、声がデカい」 「…………すみません」 俺は穴掘りが大好きだ。大事なものを公園や近所の空き地に埋めている。当たり前に皆がやっていると思い込んでたら、それは狐の習性らしい。堂々と発表して『変なやつ』と入社当時に散々噂になり、今でもトラウマだ。 人と狐の違いについて親から受けたレクチャーをもっと真面目に聞いておけばよかった。両者は見た目以外にも違うところが沢山あるのだ。 「お前は、天然なところが初々しくていいんだよ。落ち込まず次に行くぞ」 「初々しいって、もう新入社員じゃないから、しっかりしないといけないですよね」 「そのうち成長するから、くよくよ悩むな。ところで親御さんがやっている食堂ってどこなんだ?」 三河商事の総務部長さんが言っていたことを木ノ下さんが質問した。 「きつね食堂の本店です」 「あそこは、きつねうどんが名物なんだろう。俺も行ったことある」 「是非来てください。木ノ下さんが来てくれると両親が喜びます。サービスしますから」 「ありがと。友達と行くよ」 お客さんは人間でも狐でも有難い。俺は木ノ下さんにサービス券を手渡した。 木ノ下さんは俺が狐だとは微塵にも思っていないらしい。狐が実際にいることを、大多数の人間は夢にも思っていない。取り敢えず胸を撫で下ろした。 その時、彼の柔らかそうな髪が春風に揺れる。端正な顔立ちは、背の高い木ノ下さんを一層男前に見せていた。 この人に少しでも近付きたい。 格好も、仕事も、仕草も、何もかも全てが憧れの存在は、輝いて見えた。 「何?」 「あ、いや、すみません……」 「怒ってないから、簡単に謝んな」 くしゃくしゃと木ノ下さんに髪の毛を触られる。彼からは、とてもいい匂いがする。頭が爆発しそうなくらい沸騰して、くらくらした。

ともだちにシェアしよう!